2020
22
Jan

百合小説

沖ノブ(fgo)百合小説 酒と思って媚薬を飲んじゃった沖ノブ


「あっれ~? ダ・ヴィンチちゃん、ここにあった一升瓶知らない?」
「君のオーダーで作った媚薬SAKE味バージョンのことかい? それなら全部、沖田くんが持っていったよ」
「そうなの? せっかく以蔵さんと坂本さんの部屋に差し入れようと思ったのになぁ。まぁ、百合もいいよね、覗いてくる!」
「君は本当に清々しいほど腐っているねぇ」

軽いノリでゲスい会話がなされたダ・ヴィンチ工房。
まさかそんな物を掴まされたとは露にも思わない沖田は、ほくほく顔で一升瓶を抱え、ボイラー室横の茶室へやって来た。

「見てください、ノッブ! お酒を三本も頂いてきましたよ!」

じゃじゃ~ん、とばかりに酒瓶を掲げ、誇らしげに胸を張る。
沖田の視線の先で、黒い軍服に身を包んだ信長が、畳に横たえた身体をゆっくりと起こす。昼寝の最中だった信長は、不機嫌な顔で沖田を見た。

「なんじゃ人斬り、貴様一人でそんなに飲むんか?」
「なに言ってるんですか、一緒に飲みましょうよ」

沖田は桜色の着物の袖を襷でくくる。酒瓶を座卓に並べ、地袋から湯呑を取り出した。ぽんっと小気味のいい音を立て、栓を開けると、湯呑に波波と注いで信長の方へ伸べる。沖田が満面の笑みで差し出すものだから、信長はつい湯呑を受け取ってしまう。受け取ったものの、飲みたくはない。しばし、揺れる酒を見つめ、信長は座卓へと湯呑を戻す。顔を上げると、沖田がすでに一杯飲み干したところだった。

「ふはぁ。結構いけますねぇ……。って、あれ? ノッブ、飲まないんですか?」
「わしは酒はやらん」
「えええ~。せっかくもらって来たんですから、付き合ってくださいよ」

沖田がぷうと餅のように膨らむ。

「わしは自ら毒を喰らう者の気がしれん。貴様は病弱持ちなんじゃし、控えたらどうじゃ?」
「サーヴァントはお酒に健康を左右されたりしないんじゃありません? というかノッブ、戦国武将のくせにまさか下戸ですか? ぷぷっ」
「む、一杯でんな顔しとる貴様に、下戸だのと言われる筋合いはないわ」

沖田の頬は、ほんのり赤らんでいた。傍から見れば、すっかり酔っ払いの顔だったが、当の沖田はほぼ素面。見くびられた気がした沖田は、「じゃあ勝負しましょうよ」とムキになって信長を煽った。

「先に潰れた方が、一つだけなんでも言うことを聞く。それでどうです?」

わざと目を座らせ、信長の湯呑をずいと押す。信長はふんと鼻を鳴らし、一気に酒を呷った。

「後悔するでないぞ、人斬り」
「望むところです」

二人は数秒睨み合い、バチバチと火花を散らた。やがてどちらからともなく立ち上がり、室内につまみになるものがないか探しだす。

「確かダーオカのヤツが、この辺に鮭とばかなんかを隠しとったはずなんじゃが、おっと、これじゃな」
「土方さんのたくあんと、オルタのおでんもありますよ」
「いや、おでんに手を付けるんはマズイじゃろ」
「そうですか? まぁ良いですけど」

酒だけだった座卓につまみが並ぶ。腰を下ろした信長が、酒を注ぎ、ぐびりと口をつける。向かいに座る沖田は、自分でも知らぬうちに、満足げな笑みを浮かべて、酒を喉へ流す。甘酸っぱい。

(普通は焼けるような感じがするものですが、これは後からポカポカてくる感じですね)

生前飲んでいた物とは少し違う、そう感じた沖田だったが、きっと屯所では手に入らなかったような、上等な酒なのだろうと思い、特に気にはしなかった。
一方、信長はというと、

(ふむ。果実のような香り、味はしっかりとした甘みがあるの。ほどよく酸味もあって、キレも良い。しかし日の本の酒とは、もっと人を酔わすものではなかったか?)

信長はそう酒に強くはない。湯呑一杯を一息に飲んだのだから、もう酔いが回っていてもおかしくないはずだった。だがそれがない。少々身体が温まる程度で、くらりとも、ふらりともしない。サーヴァントの身体だからだろうか?
信長は少々訝しんだが、隣で美味そうに湯呑を呷る沖田を見て、きっとそういう酒なのだと思うことにした。

「そうだ、ノッブ。これ焼いてくださいよ」

沖田が岡田秘蔵のとばを差す。

「貴様、このわしを炉端扱いする気か?」
「だって焼いた方が美味しいじゃないですが」
「それはそうじゃが、ったく、是非もないのう」

ぼっ。とばが燃え上がり。一瞬でこんがりと焦げ目がついた。焼けた魚の香りが立つ。
沖田は一欠片を拾い上げ、口へ放る。

「ん~。ほら、やっぱり焼いた方が美味しいですよ」
「心して食えよ。このわしが直々に焼いてやったんじゃからな」
「沖田さんは酒を調達してきましたから~」
「ふん。ほんに口の減らんヤツよの」

わずかに口の端を持ち上げ、信長もとばを口へ運ぶ。酒を呷れば、溶け合う香りが鼻孔をくすぐった。塩辛いとばに、甘い酒。相性が良いとは思えなかったが、食らってみれば別々に食べていては味わえない、不思議な旨さがあった。

「この酒、悪くないのう。気に入った」
「そうでしょう、そうでしょう。さあ、もっとじゃんじゃんいきましょう!」

すっかり上機嫌の沖田が、まだ半分ほど残る、信長の湯呑に酒を注ぐ。自分の湯呑にも注いで、まるで水のように飲み干す。生前、隊士たちを散々酔い潰してきた沖田には、この酔わない酒は全くもって物足りなかった。信長は信長で、あまりにも酔わないものだから、沖田につられたことも手伝って、ぐいぐいと調子よく飲み進めてしまった。
信長が異変に気づき始めたのは、一本目の酒瓶が空になる頃だった。
始めは気のせいだと思っていた。しかし、それは次第にハッキリと感じ取れるようになっていった。
どうにも腹の内の、特定の箇所が痛むのである。信長はその痛みに覚えがあった。他者と交わるときに感じる、肉筒の痛みだ。煽られ、昂ぶるときに、蜜が滲む、その痛みだった。
信長は困惑した。今、部屋には、酔った人斬りと二人きり。情欲を昂ぶらせるものなど一つもない。なのにどうしたことだろう。景気よく酒を飲み干す人斬りの、赤らんだ素肌がやけに目を奪う。頬へ、耳へ、首筋へ。独りでに視線が這う。

(妙じゃな、こんな色気のない人斬り相手に……。まぁ、顔は好みじゃが、コヤツは童じゃぞ……)

訝しみながらも、視線をそらせずいると、ぱちり、沖田と目が合った。赤い頬を緩ませ、くにゃりと笑う。信長の心臓が跳ねた。

「ノッブ、なんだか大人しくなっちゃいましたね? もう飲めませんか? なら沖田さん大勝利ですね!」
「さ、酒は静かに味わって飲もんじゃろっ」
「そんなことないですよ! 屯所で飲んでたときは、もうみんな大騒ぎでしたとも!」

沖田はぶんぶんと腕を振り回し、当時の盛り上がりを表現する。そんな幼さを感じる仕草にも妙な気を起こしそうな信長は、慌てて視線をそらし、湯呑の中身を飲み干す。甘い香りに一度噎せ、気付いた。

(まさか、これは……)

内心、焦りつつ、瓶の中の液体を湯呑に注ぐ。身の内に湧く熱に気を散らされながらも、ぐっと集中して液体を観察する。微かに、魔力を感じた。媚薬の類に違いない。信長の懸念が確信に変わった。

(お、き、たああああ!!! 貴様、このわしを誑かす気でおったのか……!!!)

ギッと沖田を睨みつける。だが沖田は、変わらず怪しい液体を美味そうに飲み、「このお酒、全然酔わないですけど、本当に美味しいですねぇ」などと、ふやけた顔をしていた。その無防備さにギクリとしつつ、信長はおかしなことに気付く。
沖田は信長の倍は、この媚薬を飲んでいるのだ。信長に効きだしているということは、沖田にはもっと強く作用しているはず。にも関わらず、沖田は相変わらず上機嫌に液体を飲み続けている。
理屈に合わない。どうしたことだろう。信長は気を紛らわしたいこともあり、真剣な顔で推理を始めた。が、それは沖田の次の行動によって阻まれてしまった。

「お、おい、貴様! なにをしとるんじゃ!」
「あぁ、なんだか、身体だけ火照ってしまって……。ちょっと行儀が悪いですけど、脱がせてもらいますね。ノッブも暑かったら脱いじゃっていいですから」

(うおおおおおおおおいいいいい!!!!! やめろやめろやめぬかあああああ!!!!! 今のわしに肌を見せるでないいいいい!!!!!)

信長の心の声など知る由もなく、沖田は袴を脱ぎ、着物を脱ぎ、襦袢一枚の姿になる。さらには、ふぅ、と熱っぽく息を吐き、襟元を開きバタつかせるものだから、信長の熱は一気に上がってしまう。見ないよう目元を覆ったはずだったが、薬の効果か指がぱかっと開き、隙間からバッチリしっかりと、その光景を見てしまった。

(おおおおおお、おきたあああああ!!!!! きっさま、おぼこのくせして、おぼこのくせして、どんだけどスケベな身体しとるんじゃあああ!!!!! というか何故わしだけこんなことになっとるんじゃ! 貴様の方が多く飲んどったろ! って、まさかコヤツ、このムラムラがムラムラと解らんのか? じゃから身体が火照るだけ? わしの下半身は本能寺状態じゃというのに、貴様はあれだけ飲んでもまだ酔わぬ酒だと思っとるんか?? あああ、しかもまだ飲むんか、飲み過ぎじゃろ、それ以上はヤバイじゃろおおおおお???)

信長は真っ赤になった顔を抑え、叫び出したいのを堪える。このままではどうにかなってしまいそうだった。部屋の隅にあった水差しを持ってきて、湯呑みに注ぎ、一息に飲み干す。

「あ、ダメですよ! 水飲んだら酒が薄まるじゃないですか!」
「べ、別に構わんじゃろ、というか貴様も飲んでおけ。飲みすぎじゃぞ」

あまり沖田を直視しないよう、信長は水差しを差し出す。沖田は不満げに頬を膨らませたが、「まあ、このお酒ではノッブを潰す前になくなりそうですしね」と勝ち誇ったように鼻を鳴らし、湯呑みに水を注いだ。信長ももう一杯、二杯と、効果が薄まるよう願って水を飲み干す。だが下腹の疼きは、一向に収まる気配を見せなかった。
その上、沖田が「ノッブ、顔が真っ赤ですけど、まさかこんな酒で潰れるくらいヤワなんです? え? そんなことない? ならもう一杯いきましょう」とまた媚薬を波波注いだ湯呑みを差し出してくる。

(おおおおおのれえええええ、おきたあああああ、薬が効かんからって調子に乗りおってええええええ……。く、よかろう、かくなる上は、わしの理性と貴様の鈍感、どちらが勝つか確かめてやろうではないか……)

やけくそになった信長は、注がれた媚薬をぐいと飲み干す。魔力を伴う香りが鼻腔を突き抜け、頭がくらりとした。飲みぶりに小さく拍手をする沖田のしぐさが、笑顔が、色情を煽るために作られたもののように感じる。
ただの酒と思って飲むのと、媚薬と知って飲むのとでは、まるで作用が違っていた。鼻、口、喉、胃。その甘い香りが触れる全ての場所から、体内へと熱が染み込む。血流に乗り、脳を揺らす。脳ばかりではない、すでに取り入れた媚薬の成分が、体中で踊り狂い、下腹部へと集まってどんちゃん騒ぎをしているのだ。上品とは言えない所作で酒を煽る沖田でさえ、途方もなく魅惑的に思えてくる。信長の目は一秒ごとに血走り、呼吸もどんどんと浅くなっていった。

「もお、暑いなら脱いだらいいじゃないですか。うっとおしいですよっ」

信長がハァハァしていると、状況を全く分かっていない沖田が、四つん這いに信長に這い寄る。襟元に手を伸ばし、軍服のボタンを外しだす。

「お、おああああ!!! な、なにすんじゃ!!! 人斬り!!!」
「なにじゃないですよ、そんな顔真っ赤にして。見てるこっちが暑苦しいんです。こんなの全部脱いじゃってください」
「ぜ、全部て、貴様、どこまで脱がす気じゃ!!! お、おい、こら、やめろ、やめぬか!!!」

信長が慌てふためく間に、沖田は力任せに信長の服を剥ぎ取り、シャツ一枚にしてしまった。まさかこのまま喰われるのでは? と信長は思ったが、そこは性的に未開拓の沖田である。信長の格好が涼しくなったことに満足し、座卓の向かい側へと戻っていった。
信長の芯に、際立った疼きを残して。

(お、おのれおのれおのれおのれええええ!!! 沖田の分際でこのわしに!!! ほんの一瞬とはいえ、き、期待をさせるなどおおおお!!! 許さんぞ貴様ああああ!!! 見とれ、今に目にものを……って、なんじゃ、なにしとる? ああああ!!! おい、まて、よせ、これ以上はああああああ!!!)

ばっと目を背ける信長の向こう、沖田が襦袢の襟を大きく開く。袖を抜いて、上半身裸になる。
胸にサラシが巻かれてはいるものの、一気に上がった露出度に、信長は大いに焦る。焦りまくって、あちこちからおかしな汗が噴き出す。

「この茶室ってホント暑いですよねぇ。部屋で飲めば良かったです」

汗ダラダラの信長に気付くことなく、沖田ははたはたと赤い顔を仰ぐ。
これは目の毒。見ない方が良い。
理解しつつも、媚薬がキマっている信長は、はしたないとも言える、その姿をチラチラッと盗み見てしまう。赤く染まり汗の浮く肌、剥き出しになったしなやかな腕、サラシで潰してなお見ごたえのある乳房。
ほんの一瞬のつもりが、舐めるように見回してしまった。あまつさえ、本当に舐め回してやりたいという気持ちが、当たり前のように湧いてくる。ここが自室であれば、すぐにも沖田を抱えてベッドへ放り投げ、良からぬことをしてしまっているかもしれない。
信長の脳内が、沖田のR指定姿で埋め尽くされる。非常に由々しき事態であった。

(くっおおおおおお!!! 沖田めええええ!!! ぜんっぜんそういう色気のない脳筋みぼろのくせしおってええええ!!! なんじゃその乳!!! もっとしっかり潰しとかぬか!!! いつも刀振るのに邪魔じゃとか抜かしとるくせにいいい!!! ええい、サラシで潰した胸なんぞに、この織田信長が負けてたまるか!!! 媚薬が効いているとはいえ、沖田なんぞに誑かされては末代までの恥!!! 大体こんなヤツより昔娶った者どもの方が五千兆倍エロ……、いや、美しかったわ!!! おお、そうじゃ、あやつらのことを考えておれば、沖田なぞ気にならなくなるのではないか? そうじゃ、それが良い! 帰蝶ー! 吉乃ー! わしを鎮めよ! 鎮めるのじゃーーー!!!)

信長は目を閉じ、祈るように妻との思い出を振り返る。
ぼわんぼわんのぶぶ~
頭の中に現れた慎ましやかな妻たちの姿に、信長はほっと胸撫で下ろす。その秘めるが故に醸す色香は、むしろ暴くのが無粋という気にさえさせる。

(うむうむ。くるしゅうないぞ、二人共。やはり忌々しい人斬りとは、月とスッポンよな。このままこちらに集中しておれば……、って、そなたら、なんかにじり寄って来ておらんか?)

安堵もつかの間。信長はすぐに、これがとんでもない下策であったことを思い知らされる。

(こらこらこらあああああ!!! 二人共服を着ろ!!! 脱ぎだすでなああああい!!! くるしゅうないというのは、そういう意味ではないのじゃあああ!!! た、確かにそのような夜もあったが、今思い出させるでないわああああ!!! 現代風のどぎつい挑発もやめえええい!!! おのれ、媚薬めえええ!!! あやつらはこんなことせんわあああああ!!!!!)

信長の脳内は、モザイク必須の夜の大運動会模様で埋め尽くされた。生々しい思い出がぼこぼこと湧き出てくる。
落ち着かなくては。そう思い、湯呑に口をつけるが、あいにく中身は水ではない。げほっとむせると、こぼれた媚薬がシャツを濡らした。

「あぁ、もう、なにやってるんですかぁ」

目の据わった沖田が、四つん這いに信長に近づく。帯を緩めていたために、途中で襦袢がずるずると脱げてしまった。晒された素足に、信長の目は釘付けになる。その隙に、「びっしょびしょですよ」と沖田がシャツのボタンに手をかけた。
眼前が真っ白になる。ボタンが外されるに従って、ぷつん、ぷつんとなにかが千切れていく。
それでも信長の状態に気付かない沖田は、器用とは言えない手付きで全てのボタンを外し、なんの気なしにシャツを左右に開いた。
そうして沖田は、裸になった胸をじっと見つめる。

「……ノッブはサラシ巻かなくてもいいんですね。羨ましいです」

呟くと、沖田は遠慮も断りもなしに、信長の胸を鷲掴みにした。ぎょっとした信長が、思わず身をすくめる。

「あ、すいません、痛かったですか?」
「そ、そういうわけではないが……。貴様、これはどういうつもりなんじゃ……」
「どう? うーん……、ただ良いなと思っただけですけど……。なにか変です?」

沖田は首を傾げたが、どう見てもこの状況は異常だ。
脱ぎ散らかされた衣服に、下着姿の二人。一方は胸をはだけて、もう一方がそれを揉んでいる。普段の沖田が目にしたなら「なにをしてるんですかああああ!!!」と喚き散らしていたに違いない。
にも関わらず、「ふにゃふにゃしてますね、わらび餅みたいです」と信長の胸を興味津々といった面持ちで揉んでいる。それもそのはず、沖田は信長より遥かに大量の媚薬を飲んでいるのだ。たとえ沖田に自覚がなくとも、その効果は確実に現れていた。
沖田は信長の紅潮した肌や、手の中の柔らかさに、食欲に似た感情を覚えた。「なんだか美味しそうです」と信長の胸をこねる。小さな尖りを口に含みたい衝動が、喉元まで湧き上がってくる。しまいには、口が勝手に、ぱかっと開いて、涎を垂らしそうになる。
さすがの沖田も、これには違和感を感じた。

(どうしたんでしょう、ノッブが美味しそうに見えます……。ノッブがというか、胸がでしょうか……? いやいや、気のせいですよね。沖田さんは乳飲み子ではないのですし、そんなことありえませんとも。吸ったところで乳なんか出ないでしょうし、出たとしてノッブから出てくるものなんてお断りですし、あるいは齧ったとしても、血の味がするだけで、美味しいわけではないでしょう。いや、でも歯ざわりは良さそうですよね……。ならば、血が出ない程度の甘噛なら美味しいのでは……って、ちょっと待ってください、私は今なに考えてます……!?)

ハッとした沖田は、自分の状態を省みる。
今、沖田は信長の肌を暴いて、その淡い胸を揉み続けている。呼吸は浅くなり、舌の根からは次から次へと唾液が湧く。酒によって生まれた熱は、頭と下腹へ集まって、渦を巻くようだ。敵地に乗り込む感覚にも似ているが、その場合、熱が特定の場所に集中しはしないし、唾液も出てこない。そういえば、それなりの量を飲んだのに、少しも酔わないのはなぜだろう。もしや、この妙な感覚は、今までがぶがぶと飲んでいたあの酒のせいなのではなかろうか。
ざわり、嫌な予感が湧く。
信長は裸。自分はその信長の胸を掴んで、指先でふにふに弄んでいる。どうしてこんなことをしているのか。いや、それよりも疑問なのは、なぜ信長がこんな状況で黙って大人しくしているのかだ。沖田は目だけを動かし、胸から顔へと視線を移す。
ゴクリ。
音を立てて溜まった唾を飲み込んでしまった。
信長はこれまでで一度も見たことのない、不可解な表情をしていた。今にも泣き出しそうな表情というヤツに似ているが、どうもそれとは様子が違う。頬が赤く染まり、目も眉もとろんとしている。視線は胸を掴む指先に向き、わずかに空いた口からは、ふ、ふ、とかすかに息が漏れていた。
その様に、拍動が大きく速くなる。

(どどどど、どうしたんですノッブ? ノッブ、あなた、すごくおかしな顔してますよ!? 顔だけが取り柄なのに、変な顔しちゃダメじゃないですか! でもコレ、たぶん沖田さんが持ってきたお酒のせいですよね? 私もなんだかおかしな感じですし。あああ、もう、私たち一体なにを飲んじゃったんです? というか、こういうのはまず、ノッブが気付くべきじゃないです? ハッ! ま、まさか、気付いていたのにあえて黙ってました? 沖田さんがおかしくなるのを見て、バカにする気だったとか?)

沖田のぼわぼわとした頭の中に、ふつふつと怒りが湧き上がってきた。ケンカを売られたような気分で、どうにか仕返しする手はないかと、回らない頭を必死に働かせる。そもそも自分が持ってきた物によって引き起こされた事態であることなど、すっかり忘れていた。その上その間も、信長の胸を揉む手を止めていないことにも気付いていなかった。
信長からすれば、たまったものではない。媚薬で性欲を煽られまくっているのに、触れられるのは乳房のみで、性的な刺激は一切与えられないのだ。信長もまた、沖田同様怒りが湧き、なんとかして同じ苦痛を沖田にも味わわせてやらねばと、企てていた。
そうして、二人の考えは一致する。

「ノッブはまだまだ身体が白いままですね、飲みが足りないんじゃないですか? 沖田さんが注いであげますよ!」
「貴様こそ、水で酒が薄まったのではないか? わしが飲ませてやる故、じゃんじゃか飲むが良い」

競うように媚薬を注ぎ、湯呑を押し付け合う。互いに、もっと飲ませて相手に恥を晒させようと考えたのだ。
だが考えは同じでも、こういったことは信長の方が上手だった。
信長は沖田が突き出した湯呑を受け取らず、その手にそっと自分の手を添え、湯呑みに口をつけた。ほんの一口だけ中身をすすると、軽く膝立ちになり、沖田の頭を抱いた。色の薄い突起が、ちょうど目の高さに登る。その一挙手一投足が、沖田の熱をぐんぐんとあげた。

(うわわわわ、な、なんでかまた熱くなってきました……。ああああ、ど、どうしてヨダレが……? ノッブ、沖田さんになにかしましたか!!? そそそ、そんなの許すまじですよ!!!!)

焦る沖田に、信長は目を細める。沖田の顎を持ち上げ、唇へ、ちょい、と湯呑を当ててきた。沖田は何故かなすがまま、あっという間に空になるまで飲まされてしまう。
喉の奥へと落ちた液体が、じわじわ染み込むような感覚が湧き、沖田の頭はますます、ぼうとした。

「良い飲みっぷりじゃのう、ほれ、こっちも飲んで良いぞ」

信長は湯呑を掴んだ沖田の手を、口元まで運ぶ。沖田は半ば自分から、また中身を喉へ流していく。

(くくく、どうじゃ沖田め。いくら貴様が、おぼこで激鈍な病弱クソステ人斬りでも、媚薬に侵された頭では、わしの色香に逆らえまい。わしをムラムラさせた罰じゃ、泣いて求めてくるまで飲ませてやる故、覚悟せい!!! その暁には、あんなこともそんなことも、たっぷりその身体に教え込んでくれる!!!)

タガが外れ、ヤる気満々になった信長が、暴れだしそうな身体を抑えつつ、努めて妖美な所作で媚薬を沖田の口元へ運ぶ。沖田は熱に浮かされながら、湯呑を呷る。

(のっぶ、さっきまでは、なんだかおいしそうだったのに、いまは、なんというか、きれい? にみえますね……。まぁ、もともときれいではあるんですけど、いつもとはきれいさがちがいます……。はんぶんはだかだからでしょうか? しろくって、すべすべで、くちにいれたくなっちゃいます。あぁ、のっぶをくちにいれたいなんて、おきたしゃんのあたまは、ぱっぱらぱーになってしまったんでしょうか……? いやいやいや、こんなのさっきからがぶがぶのんでる、このなぞのえきたいのせいにきまってますとも。 というかさっきから、おきたしゃんばかりのんでませんか? のっぶがのませてくれると、なぜかおいしくて、どんどんのんじゃうんですけど? だめですよ、のっぶにももっとのませないと……。あ、そうだ……)

沖田は衝動的に信長の頭を掴む。そのまま引き寄せて、唇を重ねた。
空になった湯呑が畳を転がり、沖田が口内に蓄えた媚薬が、信長へ注がれる。

(おいおいおいおいいいいいい!!! いきなり大胆じゃろ、人斬りいいいい!!! こんなんいつどこで覚えたんじゃあああ!!! しかも、わしにこれ以上そいつを飲ますだと!!? ガックガクになってもしらんぞおおお!!! って、おい、今度はなんじゃ? なぜ唇を噛む??? 止めぬか!!! 理性もなにも吹き飛ぶじゃろおおおおおお!!!!!)
(あぁ、やっぱり、のっぶ、しょっかんがいいですねぇ……。おさけのあじもして、おいしいです……。むむ、なんかぬるっとしたのが……、あぁ、したですね、これもかじっていいんですか……?)

「いっっ……!!!」

乾いた音が立つ。舌に噛み付いた沖田に、信長は平手打ちを食らわせた。

「な、なにするんですか!!!!」
「こっちのセリフじゃ!!! 口吸いもまともにできんのかバカタレ!!!」
「むぐっ……!!!!!」

信長は頬を抑える沖田の髪を、乱暴に掴んで引き寄せ、唇へ噛み付く。

「むむっ……、んぅ……、むぐ……」
「……はっ、おきた、もっと舌ださんか」
「し、した……?」

二人の耳に、荒い呼吸と水音が響く。夢中になるうち、沖田は完全に信長に覆いかぶさる格好になっていた。舌を吸い、噛み付いて、細い身体をきつく抱き締める。

「ん、ちゅ……、のっぶ……、のっぶ、これ……。ちゅぶ……、ちゅ……。これ、ぜったい、おさけのせい……、ぴちゅ……ッ、ですよね……」
「……むちゅッ、はぁ……、ったりまえ、じゃろ……! ちゅっ、んむ、妙なもの、飲ませよって…………」
「はぁ、はぁ、ちゅ……。じゃ、じゃあ……、ちゅっ……、も、もっと、のみましょ……」
「お、おい……、こら、んぶ……」

沖田は酒瓶を煽り、再び信長に媚薬を注ぎ込む。何度か繰り返し、自分も少し飲み込んで、信長の唇に吸い付く。誰と何をしているのかなど、もはやどうでもよくなっていた。
畳に転がり、上になり下になり、 互いの舌を貪り合う。しかしその程度では、昂りは一向に収まらない。
それ以上、何をしたらいいのかわからない沖田は、ただただ必死に信長に噛み付く。物足りなくなった信長が、先を教えようとしたそのとき、

「なにをしているのだ?」

頭上から聞き慣れた声が響いた。

「…………私ノーマル、第六天魔王をいじめているのか?」
「いや……、んむっ……、そういう、わけでは、ないが……、ぢゅ、……っは、おい、沖田、ちょ……。やめんか……、ん、オルタがおる……、むぐ……」

オルタの声に、信長は一気に正気に戻った。
だが沖田の方は、完全に理性が飛んでいた。信長の口を吸うこと以外、頭にない沖田は、信長が引き剥がそうとしても、しつこく喰らい付いて、歯列の奥へ入り込もうとする。その上、二人はほとんど裸。お子様にはとてもお見せできない光景になっていた。

「おわあああ!!! 沖田ちゃん!!! 見てはならぬ!!! 伯母上ぇ!!! いくら伯母上が好色でも、子供の前でクソステセイバー相手に盛るとか、さすがの茶々もドン引きーーー!!!」
「いや、どう見ても、襲われとるのわしじゃろ!!! むぶっ! ぢゅ……、ぶはっ!」

オルタの目を覆い叫ぶ茶々に、信長は反論しする。しかし「風穴ひとつ空いてない時点で、合意なのまるわかり!!!」と断じられ、沖田諸共、裸のまま廊下に放り出されてしまった。完全に媚薬に飲まれた沖田は、それでも気にせず、信長の唇を貪る。指先が肌の感触を気に入ったのか、沖田は舌に噛みつきながら、信長の胸や尻にまで手を伸ばす。
ぐいぐいと尻を揉みしだかれ、間接的に恥口が刺激される。ひやりと空気が触れる感触で、信長は自身の状態を知る。沖田に気付かれ、完全になにも考えられなくされるのも時間の問題だろう。だがさすがに、廊下ではマズイ。

「沖田、わしを部屋まで運べ。もっと良いことを教えてやるぞ……」

信長が耳元でささやいた。沖田は返事の代わりにビクリと震え、バッと信長を米俵のように抱えて部屋へと走り出す。数十歩走ったあと戻ってきて、廊下に放られた酒瓶を引っ掴んでまた走り、今度は戻って来なかった。
その後、二人は数日、口も効かずに過ごし、さらに数日後には、以前より共に過ごす時間が長くなったという。

一方、立香は百合に目覚めた。


Twitterで見た沖ノブ媚薬ネタに触発されて書いたヤツ。
半分くらいまでは調子よく進んだんですが、オチが決まらなくて完成まで数日かかってしまいました。やっぱりオチ決めてから書かないと、進まないしグダグダになるしアカンですね。沖田さんのターンを入れずに、限界に達したノッブが「相撲を取るぞ」とか言い出すラッコ鍋エンドにした方が、勢いのあるまま終われて良かったんじゃないかと思ってますが、もはや治す気力が残ってません……。でも途中までは楽しいと思うから許して!

他の沖ノブ、ノブ沖作品はこちらへ。
沖ノブ、ノブ沖作品1話リンクまとめ

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