私、藤丸立香は悩んでいた。
つい先日、心でも読めたらもっとサーバントたちのケアができるのに、とうっかりダ・ヴィンチちゃんに漏らしたところ、光の速さで『心が覗けるメガネ』なるアイテムが開発され、先ほど手渡されたところだった。
確かに心が読めたら、みんなのことをより理解できるだろうし、微力だとしても力になれることも増えるかもしれない。でも心を覗くなんてプライバシーの侵害以外の何物でもないわけだし、実際使うとなると、やはり気が咎めるのだった。
うんうん、と唸りながら食堂へと足を運ぶと、数名のサーバントたちが談笑していた。
その中に色物代表のあの人、織田信長の姿があった。いつも一緒にいる沖田総司の姿がないためか、普段よりは少し大人しく騒いでいる。
そういえばノッブと沖田さんって、いっつもケンカしてるんだよね。もうちょっと仲良くしてくれたらいいのに。
そうだ、ノッブなら心を覗いてたのバレても、面白いって言って許してくれそうだし(まぁ後が怖いけど)、ちょっとだけ試させてもらおうかな。
ノッブ、ごめんね!
私は心の中で謝りながら、食品棚を物色するふりをしつつ覗きメガネを起動し、ターゲットをノッブに設定した。
あれ?いつもケンカしてるはずなのに、ノッブって意外と沖田さんに優しい?
ていうかこの表示形式なに?心の中の天使と悪魔が~みたいになってるけど。いるの魔王だけど。なんだ魔王って。
いや、待って、ノッブって他の人とあんなに楽しそうにおしゃべりしてるのに、沖田さんいなくて退屈とか思ってるの?もしかして意外と仲良し?
あ、またなんか変なの出てきた…。
なんだこれわ。
ノッブらしいといえばらしい気もするけど、織田信長さまともあろうお方の脳内が、こんなに残念なことになっていていいのかな…。また本能寺されるヤツじゃないコレ…。
なんて、ちょっとノッブの頭が心配になったけど、食いつくところはここじゃないよね、やっぱり。
ええーーー!?ノッブって、ノッブって沖田さんのことをそんな風に見てたの!?子供のケンカみたいなやり取りしか見たことないけど、そんなアダルトなこと考えてたの!?
ええーー?いつから?沖田さんは知ってるの?部屋同じにしてるの大丈夫かな?私はコレ応援するべき?覗いちゃったわけだし、罪滅ぼし的にも応援するべきだよね?
ていうか、どういうところが好きなのー?とかそういう恋バナ的なのしたい!二人っきりのときは普段と違ってケンカしてなくて、逆に仲良し(意味深)しちゃってるの?とか問い詰めたい!
いやいや、待って、落ち着いて私。
ノッブを恋バナに誘う前に、まず、応援団として沖田さんの方の気持ちを探らないと!
え?プライバシーどこ行ったって?そんなもの恋のキューピッドの前では、犬の眉毛の数くらいどうでもいい存在でしょ!
早速、沖田さんの方も覗きに行こう。そう思ったそのとき、沖田さんが食堂にやってきた。なんて良いタイミング!
じゃあターゲットを沖田さんに切り替えて…、ん?ノッブの頭の中がさっきより騒がしい気が…。
あー!ノッブが盛り上がっちゃってるー!
でもわかるー!好きな子が視界に入るとテンションあがっちゃうよねー!
は?え?ここで脳内会議始まっちゃうの?
いや、うん、確かに意識してると日常会話のひとつひとつを悩んだりもするよ?
ていうか魔王が会議招集するんだ??
ポンコツか!ポンコツなのかあの魔王!!
なにその采配?よりにもよってどうしてここを見栄に任せた?策略役に立たなすぎじゃない?ていうかノッブ頭の中うるさすぎじゃない?何人いるの?
あぁもう、沖田さん怒ってるよ?好感度下がってるんじゃないかなぁ…。
私はターゲットを沖田さんに切り替えて、ノッブの隣に座った沖田さんの脳内をチェックする。
あー、やっぱり怒っちゃってるよー。もう名前が怒っ太に、斬り太だもん。
脈があるかどうか以前の問題だよね、これじゃ…。
あれあれあれ?沖田さん?沖田さん?
なんかすごく暗い子がいるけど大丈夫?え?なんか釣られてみんな暗くなっちゃってるけどどうしたの?
あー!今沖田さん超絶ネガティヴモードなのに煽っちゃダメー!何考えてるんだノッブの魔王!?何も考えてないのか!じゃなきゃ玉砕目指してるの?
あああああ、またケンカが始まっちゃうヤツだ、コレ。
やっぱりこの二人に仲良くしてもらうなんて無理なのかも…。
おい!魔王!何してんだ魔王!
この上見せびらかして何をしたい!?好感度気にしてたヤツどこに行った!?
駄目だこいつ…早く何とかしないと…
いや、もう手の施しようがないヤツじゃない、コレ?
キューピッドがガトリングガン持ってきても無理なレベルじゃない?
うん、そうだ、そうに違いない。私ごときが頑張ったところで、この恋の成就は不可能!ごめんね、ノッブ!
私が完全にノッブの恋の応援団を降りたとき、ノッブは沖田さんを肩に担いでスタスタと食堂を出て行った。二人はまだギャーギャーと言い合いをしているようで、廊下に出ていってからも声が聞こえていた。
その声で、沖田さんがもう怒ってないようだなと思った私は、無駄だろうなと思いながらも一応最後に沖田さんの心をチェックしておこうと、廊下に顔を出す。
なくないよ!そっちであってるよ沖田さん!
ていうか、完全脈なしと思ったのに、なんかまんざらでもない感じじゃない?
これはもしかすると、ちょっと頑張ればくっつけられるヤツかも!
ノッブ!私やっぱり、この恋応援するよ!
華麗な手のひら返しをキメた私は、今後の作戦を練るため、自室へと戻るのだった。
バカみたく手間がかかった割には微妙な仕上がりになりました。
もっと百合百合しく、かつ、爆笑取れる感じにしたかったのに無念であります。
せっかくアイコン作ったからもうちょっとこのシリーズ続けたい気もするんですが、なかなか難しいものです。やっぱり家臣としては、殿を残念な感じにするというのがハードル高くてイマイチ振り切れないんですよね。まぁ続くかは評判とノリ次第という感じかなと。
他の沖ノブ、ノブ沖作品はこちらへ。
沖ノブ、ノブ沖作品1話リンクまとめ
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