2022
19
Jun

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」7


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第六話の続きになります。

第六話までのあらすじは以下のような感じです。

新設ダンジョンに到着したフューリたちは隊列を組んで中に入ろうとするが、ガーティレイとヴィオレッタが暴走して先に入ってしまう。後を追っていくと二人は戦闘中で、イタチ型の魔物をミンチにしていた。狩人としてミンチが許せないフューリは二人の間に割って入り、攻撃を躱しながら一体のイタチを仕留めて解体を始める。イタチの内臓を見て具合の悪くなった二人は戦闘を止め、フューリは心臓のスライスをみんなに振る舞った。

以下七話です。


ため息交じりに解体を進めて、消化器系の洗浄を終わらせ処理を終えた。そして処理済みの内臓と皮付きの肉を収納しようと、ポーチからオルナダ様にもらったロープを取り出す。そこでふと、疑問が頭をよぎった。
「あの、オルナダ様……。このイタチって、たぶん僕がもらっちゃダメですよね……?」
僕らはこのダンジョンの調査でここに来ている。イタチはその調査の一環での取得物になるので、僕が獲ったとしても、僕のものになるとは限らないのだ。
「お前が狩ったんだから……」
「皮、爪、牙、角、骨は商品価値を調べる必要があるから、こっちに渡してくれる? あと毒袋とか特殊な臓器がある生き物なら、それもちょうだい。お肉は持って帰って良いから」
オルナダ様を遮ってユミエールが答えた。概ね予想通りの回答だったけど、ちょっと困った。
骨を渡すためには肉から外さなくてはいけない。でも今、骨を外してしまったら、死後硬直のときに肉が縮みすぎて、旨味がすっかり流れ落ちてしまう。それではせっかくの肉が台無しだ。皮も道具にしないのであれば食べてしまいたい。
「えぇと……、骨と皮をお渡しするのって、後日じゃダメですか? 傷は付けないようにしますので……」
「そうねぇ。じゃあ三頭狩れたら、OKということにしましょうか。一頭は止めまで、二頭目は臓器は抜かずに皮剥ぎまでやってもらって、三頭目は持ち帰って良いってことで。そのイタチはもう解体済みだし、三頭目の扱いにしましょう」
「あ、ありがとうございます!」
ユミエールはニコニコとして僕の申し出を快諾してくれた。オルナダ様が「なにしれっと注文増やしてるんだ」とじっとりとした目でユミエールを睨んだけど、そんな注文なんて美味しいお肉の前ではなんでもないことだ。
僕は「じゃあ、これしまってきますね」と、手に持ったロープを地面に置き、先端の金具を繋ぎ合わせた。ロープは魔力を注がなくても青く発光して、輪の中に倉庫の光景を映し出す。オルナダ様にもらった小屋の食料庫だ。僕は素早く中に飛び込むと、冷蔵室に肉を吊るし、スライムシートに包んだ内臓をおいて戻って金具を外した。
「……ちょっとオル。これはなに?」
「ん? 見てのとおり、転移魔術を組み込んだロープだ。冒険には便利なアイテムだろう」
「とっても便利でステキです!」
「ふはは。そうだろそうだろ」
何度か使ったけど、このロープは本当に便利だった。尊崇の念を込めて褒めると、オルナダ様は得意げに胸を張った。それを見て僕は楽しい気持ちになる。
「お前さ、わかってねーんだろうけど、そういうのはアイテムボックスっつって、国宝級のアイテムなんだぞ?」
「売ったら小国を一個まるごと買えるくらいのお値段のはずでしゅ……」
振り向くとシシィとルゥが顔を引きつらせてこっちを見ていた。ロープの価値を知らされた僕も同じ顔になる。さらに恐ろしいことにユミエールが「アイテムボックスなら接続先が亜空間だから良いけど、これはイラヴァールに繋がってるから、敵対する相手には計り知れない価値があるってわかってる?」とオルナダ様を睨む。
「心配ない。フューリ以外は使えないようにしてある。術式も解読されないよう、何重にもプロテクトをかけてるしな。これを破れる者は魔族でもそうはいないぞ」
「あら。そう言われると破りたくなるわね」
「そ、そうね。でもこのヒーゼリオフ様は優しいからやらないでおいてあげるわ。べ、別に自信がないってわけじゃないけど」
「ふふん、なら挑戦してみるか、お前ら」
「あなたたち、パズルじゃないんだから……」
ユミエールが眉間にシワを寄せて、楽しげに僕の手の中のロープを見上げる三人の魔族を諌めた。僕からロープを取り上げ術式を睨みつつ、オルナダ様にロープに施した術式とプロテクトについて色々質問をしていく。二人の会話の内容は僕にはチンプンカンプンだったけど、どうやらユミエールは僕が持っていても問題ないと判断したらしい。「大丈夫とは思うけど、絶対になくさないでね」とロープを返してくれた。
どうやらまた大変なものをもらってしまったらしい。ロープを受け取る手が震えた。
「はっ! いや待て、これは討伐戦だぞ。クソ田舎狩人の流儀なんぞ知るか! パワーで押し切る。それがオーガのやり方だ! 私が食う分だけ貴様が獲ってよこせば良い。そうだろうが!」
僕がロープをしまったタイミングで我に返ったガーティレイが、ずいと覆いかぶさるようにして僕に詰め寄った。言ってることが無茶苦茶すぎて、どこから突っ込めばいいのかわからない。
「あなたたちの任務は討伐じゃないって何度か言ってるけど、あなた本当に話を聞かない子ね、ガーディレイ……」
「お主らは擬似冒険者パーティなのですわよ? 素材をダメにしてどうするんですの?」
「知ったことか! 私は私の流儀でやる。それがオーガというものだ!」
僕が口を開く前にユミエールとキャサリーヌが残念そうに言ったが、ガーティレイはまるで聞く耳を持たなかった。絶対に意思を曲げないとでも言うように腕組みをした。
「ふん、小童めが。よろしいですわ。ならば、オーガ流で従わせて差し上げましょう。かかっておいでなさい」
キャサリーヌは鼻で笑うと、腰の片手剣を一本抜いて、切っ先をガーティレイへ向けた。訓練で使っている木剣だった。今度はガーティレイがふふんと笑う。
「ずいぶんと耄碌してるようだな!」
ガーティレイはキャサリーヌに容赦なく斧を振り下ろす。
まずいと思い斧の前に飛び出そうとしたが、オルナダ様が進路に腕を出して僕を止めた。
キャサリーヌはその場を一歩も動かず、木剣を斧の軌道上にかざした。
当然、木剣は一刀両断になる。普通なら。
ところが木剣はズンと鈍い音を立てて斧を受け止めていた。ガーティレイが驚愕の表情を浮かべる。そしてその表情を貼り付けたまま、顔をガクンと上へ仰け反らせた。
キャサリーヌが一直線に顎を蹴り上げていた。
ガーティレイはたたらを踏んで、数歩後退する。
「うはぁ、おっかなぁ~」ティクトレアの影にしゃがんだケイシイが、他人事のように言った。
「魔物を粉砕してはいけない理由は複数ありますわ。ひとつはさっきも言ったように、素材がダメになること……」
「ほざけ! 老いぼれが!!」
もう力の差は明らかなのに、ガーティレイはムキになってキャサリーヌに向かっていく。
キャサリーヌはガーティレイをからかうように斧を躱しながら、魔物を粉砕してはいけない理由と一緒に、木剣を叩き込む。
「汚物が撒き散らされることで、疫病の発生に繋がること」と脇腹に。
「匂いに惹かれ、より強力な魔物が寄ってくる可能性があること」とふくらはぎに。
「毒性器官を持っていたら、毒を浴びる」と肩に。
「爆発性器官を持っていたら、吹き飛ばされる」と手首に。
「既知の魔物なら破損させないよう避けるのが定石」と鼻面に。
「未知であるなら、あらゆる可能性を考慮し慎重になるのが当然」と鳩尾に。
優雅さや気品を感じさせる動きで繰り出されるのに、一撃一撃が猛烈に重たいことが傍目にもわかる。そのすべてが低い唸りを上げてガーティレイに突き刺さるのだ。
ガーティレイは打撃を受けるたびに唸り、よろめき、ついに膝をつき地面にひれ伏した。
「ようするに、貴様はあまりに考えが足りないのですわ」
「ふぐぐ……、お、おのれぇ……」
くるくると木剣を弄ぶキャサリーヌを、ガーティレイは悔しげに睨みつける。ここまでやられてまだやる気らしい。立ち上がり、だらだらと流れ落ちる鼻血を拭おうともせず、再び斧を構えた。
「まぁまぁ、ガーさん。まだ調査続くんでこの辺にしといてくれないっすかね? パーティ最大級の火力に消耗されると、ヒューマーの私なんかは超不安になるんで。ここはひとつ器の大きいところを見せて、斧を収めてもらえると嬉しいっすよー」
また向かっていくのかと固唾を呑んでいた僕の後ろから、シシィが顔だけを出してガーティレイに声をかけた。
僕はガーティレイが斧をシシィに向けるんじゃないかと山刀に手をかける。ところがガーティレイはどういうわけか「この程度で消耗などありえんが、確かに貴様らは頼りないしな」と斧を下ろした。
「よっ、さすがガーさん、オーガの鏡! 大人げがある!」
「ふん。当然だ。だが「ガーさん」はやめろ。ちゃんとガーティレイ様と呼べ。いいな、ヒューマー」
ガーティレイはなぜか急に、ニヤニヤと口元を歪めだした。
精神系の魔法かなにかなのか? でもヒューマーのシシィにそれは無理なんじゃ?
「オーガは単純って聞くけど、本当みたいだな」
僕が目を見開いて見つめると、シシィはピースサインを作ってウインクしてみせた。魔法ではなく、ただおだてただけらしい。とは言っても、あの状態のガーティレイによく声をかけたものだと僕は心底感心した。
「納得したと思ってよろしいですわね? 今後は魔物のミンチは禁止。極力一撃で仕留めるよう、連携を取って戦闘に望むようにしていただきますわ」
キャサリーヌが木剣をしまって、僕らを見回す。ガーティレイはそっぽを向いていたけど、今度は反論しなかった。
「ではどう連携を取っていくかについて、パーティ内で話し合いなさいな」
「そんなもの当然……」「ならば我が……」
「ただし、今度くだらない言い合いを始めたら、今のようにしばきますので、心してかかりなさい」
ガーティレイとヴィオレッタが口を開くや、キャサリーヌは鋭い眼光で二人を睨み付ける。二人は即座に口を閉じて喋らなくなった。何度かなにか言いたそうに口を開くけど、言えば木剣で殴られると思うのか、声を出す前に口を閉じて、ぱくぱくと魚のような動きになっていた。
この二人がケンカしていないのは、今となっては違和感があるけど、話し合うということなら、このほうが良いだろう。
「フューリ、お前はこのメンバーでどう連携を取るのが良いと思う?」
僕がシシィとルゥの近くにしゃがむと、オルナダ様がひょいと僕の顔を覗いてきた。
効率的に狩るなら当然、獲物に合わせた連携を取るのがベストだ。だけど、ここではなにが出てくるかわからない。だから先頭は確実に盾役だ。できれば盾を持っても素早く動けて、かつ、身体が丈夫である者が望ましい。僕かガーティレイが適任ということになる。
獲物に不要なダメージを与えず狩るには、僕の山刀か、ヴィオレッタの細剣で一突きにするのが一番だろう。なら仕留め役は、僕かヴィオレッタだ。
シシィとルゥは基本的に盾の後ろにいてもらって、獲物の気を散らしたり、行動を妨害してもらったりする援護役に徹してもらうのが安全だ。
そして全員が有効な動きを出来るよう、全体を俯瞰して指示を出す人間も必要になる。この役には、視野の広さや、感覚の鋭さ、獲物の特性を素早く解明できるだけの知識があり、殿を努められる戦闘力のある者が望ましい。そして獲物の特性を見抜く知識は、おそらく僕にしかない。
となると必然的に、盾役がガーティレイ、仕留め役はヴィオレッタ、シシィとルゥが援護に入り、僕が殿と指揮を務めるのが最適ということになる。そんなことを言ったら最後、またあのうんざりする言い合いが始まってしまう。しかも今度は僕を巻き込んで。
「……そ、そう、ですね。与える傷は小さいほうが良いので、止めは剣でさすのが良いとは思いますけど……」
結局僕は当たり障りのない意見を一つ述べるだけにしておいた。
オルナダ様は「うんうん、それから?」と先を促してくる。僕が渋ると「どうした。専門家の意見は貴重なんだ、遠慮せずどんどん言ったほうがパーティのためだぞ」と背中を擦ってくれる。
遠慮というよりは衝突が怖くて、僕は発言を避けている。だけどそれはオルナダ様の犬として相応しくない行動な気がした。
言うだけ言って、揉めたら「あくまで一つの案だから」と逃げれば良い。僕は意を決して、発言を求めるため挙手をしようとした。
「ここまでの各人の性能からして、ガーさんが盾役して、ヴィさん仕留め役、私とルゥが援護で、指揮はフューリってのがベストなんじゃないか?」
シシィが顎に手を当てて、僕の考えとまったく同じ案を提示した。
ガーティレイとヴィオレッタが目を見開き「なんだと?」と声を上げた。二人はキャサリーヌの手前、多少は控えめな口調でシシィに理由を尋ねる。シシィが語った理由も、僕の考えと同じだった。
「ふざけるな!! 誇り高きオーガが盾なぞ持つか!!」
ガーティレイが赤い顔をさらに赤くして憤慨する。全く予想通りの反応だ。僕はガーティレイがシシィに殴りかからないよう、立ち上がり二人の間に立つ。
冷や汗をかきつつ、ちら、とシシィを見る。シシィは余裕の表情を浮かべて「いやいや、ガーさんそれは逆っすよ」と立てた人差し指を左右に振った。
「まず、我々の持ってきてる盾はアレなんすよ。あんなの持って戦闘中にまともに動ける種族なんて、オーガ以外いないでしょ? そもそもオーガ用の盾ですし」
シシィは立てていた指で、僕が地面に突き刺した大盾を指す。
「それにいくら盾が攻撃を防ぐって言ったって、衝撃はあるわけですよ。中型竜のテイルアタックでも喰らった日には、盾ごと吹き飛ばされるか、ダメージ受けて行動不能になるわけです。そんな強烈な衝撃に耐え、パーティの守護神になり得る種族といえば……」
「まぁ、オーガ以外あり得んだろうな」
「オーガ以外には不可能な役となれば、それはオーガに相応しい誇り高ぁい役ということになりますよね? そんな役を頼まれて引き受けないなんていうのは……」
「ま、まぁ、オーガがすたるというものだな……」
「それにですね、このダンジョン、今のところチンケなイタチしか出てないじゃないっすか。あんなの、オーガのガーさんが、この超立派な斧で切る価値あります?」
「む。確かに、この私がわざわざ相手をするまでもないな……」
「でしょう? てことで、相応しいのが出てくるまで、盾役、お願いできます?」
「ふん。仕方あるまい、このガーティレイ様がその役、引き受けてやろうではないか」
「あざっす! 斧は責任を持って、フューリがお預かりしますので!」
シシィは親指で僕を指しつつ、腰の後ろで僕らにピースサインを送っていた。
さっきまでカンカンに怒っていたガーティレイが、今は機嫌良さげに鼻を鳴らして盾を引き抜いている。なんてすごい技だろう。僕はまるで魔物使いでも見たような気分だった。
「ふ。あんな見え透いた世辞でコロッと態度を変えるとは。さすがはオーガ、単純バカだな……」
「けど実際、あの人じゃないと、あの盾は無理っすからね。いちいち口に出して褒めないと、尊敬の念が伝わらないのは面倒ですが」
シシィはへらへらっと笑って首をさすった。
「その点エルフの人は、役割を頼んだ時点でどこをどう買われてるのかってのをわかってくれるんで助かりますよ。ちなみに言っとくと、私はヴィさんの剣の優雅さなら、レベルマの狩人も真っ青の見事な止めを刺してくれると踏んで、推薦したんすよね」
「ふふん。無論、そうであろうな」
シシィがやや大げさな口調で言うと、ヴィオレッタは口の端を持ち上げた。たぶん今のも見え透いたお世辞なんだろう、シシィは僕とルゥにこっそり親指を立てて見せた。ともかくこれで僕らのパーティは、盾役ガーティレイ、仕留め役ヴィオレッタ、援護シシィとルゥ、指揮僕の編成に決まった。

オルナダ様たちは再び魔法で姿を消し、僕ら五人は一列に隊列を組んで先へと進んだ。
筒の中を進んでいるような光景は変わらなかったが、潜るに連れて壁の色が地上と同じ赤から、青みがかった灰色へと変わっていった。筒の所々に、元からあった洞窟と繋がってできた穴が空いていて、奥から生き物の気配がしていた。
「先に進むんなら、このつるっとした道を進んでけば良いんだろうけど、こういう脇道も見ていきたいよなぁ。どう思う?」
前を歩くシシィが僕を振り返る。
「うーん。ユミエールさんの話だと、たくさん戦闘したほうが良いっぽかったから、なにかいるときは脇道入っても良いんじゃないかな。あの左の穴と、そっちの下の穴の先は生き物がいるよ」
僕は前方にある二つの穴を指差す。
「よし貴様ら、私に続け」
「勝手に進むなオーガ」
「先頭は私なのだ、私が決めて然るべきだろうが」
「そっちはたぶん虫系の魔物ですね」
僕が匂いから判断した情報を伝えると、ずんずんと進んでいたガーティレイとヴィオレッタがピタリと足を止め、揃って後ろ歩きで戻ってきた。
「「む、虫だと!?」」
二人はまったく同じように首をぐるんと回しこっちを見た。
「はい。たぶんムカデか、ゲジゲジの類かと」
「「ム、ムカデ!? ゲジゲジ!?」」
「足音が重いでしゅから、きっと大きいでしゅね。三匹くらいいそうでしゅ」
「「三匹ぃぃぃ!?」」
僕とルゥの言葉に、二人はみるみる顔を青くした。虫が嫌いらしい。まぁ美味しい虫は少ないから当然かもしれない。
「こ、こっちは? こっちはなんだ?」
「匂いからすると、トカゲっぽいですね。魔香が薄いので動物と思っていいと思います。動いてないので、大きさとか頭数はまだわからないです」
「頭数くらいならステボでもわかるんじゃないか? コマンド、生体感知、二時方向!」
シシィがステータスボードを起動させると、目の前に青い光の四角が現れた。四角の中央に人型の黄色い記号があり、その右斜上に大きく歪な赤い点が点滅していた。
「……うーん、重なってるのか、一頭だけなのかわかんないな」
「ルゥが感知魔法で探ってみましゅ。……一頭だけでしゅね、大きさはガーしゃんの倍くらいで、フューしゃんの言う通り爬虫類型でしゅ」
「よし、ならこっちに進むぞ」
ルゥが言うと、ガーティレイはトカゲ側の穴へと足を進めた。僕らは少しだけお互いの間隔を詰め、下向きに空いた穴を降りて洞窟の奥へと進んだ。
洞窟内はごつごつとした岩に囲まれていて、筒の中に比べると歩きにくかった。天井から滴り落ちた水滴が所々に水溜りを作っていて、油断すると足を滑らせてしまいそうだ。
にもかかわらず、ガーティレイはずんずんと先に進んでいく。音を立てようが、後続が転ぼうがお構いなしだ。ルゥが穴に入る前にかけてくれた隠密魔術のお陰か、今のところ気づかれた様子はないけど、僕は念のためにトカゲの匂いが数十メイタル先まで迫ったところで「一旦止まってください」と指示を出した。
「なぜ止まる? ビビったのか?」
「いえ、その、一度話し合いをと思って……。どんなトカゲかも、地形もわかってないですから」
「ちちちちち地形はここと同じで足元が悪いでしゅ。こここの先は空間が開けてて、その先に狭い穴が二つ空いてましゅしゅしゅしゅしゅ……」
ルゥがぷるぷる震えて言った。どうやら間隔を詰めたことで、僕の技能『捕食者の気配』の射程範囲に入ってしまったらしい。申し訳なくもあり、気の毒でもあるが、なにより悲しい。しょぼんとしつつ、僕はそろそろとルゥと距離を取った。
「もしトカゲが臆病な性格なら、僕らに気づいた瞬間、その穴から逃げる可能性が高いです。なのでヴィさんはできるだけ突入した穴とは別の穴を背にして戦ってもらって、シシィとルゥさんはもう一つの穴のほうにトカゲが行かないように進路を妨害してください。ガーさんはシシィとルゥが攻撃されたときに庇うようお願いします。僕は退路を確保しつつ、トカゲの動きを観察して、指示があったら出すようにします。……って感じでどうでしょう?」
「ずいぶん当たり障りのない策ですね、デンカ」
「私は良いと思うけど、凶暴だったときはどうするんだ?」
「そのときは基本的に全員ガーさんの後ろにいて、攻撃のときだけ出て戻る感じかな。それか遠距離攻撃で倒すかだね」
「おい。貴様ら、黙って聞いていればガーさんとはなんだ。ガーティレイ様と呼ばんか、私に無礼だぞ」
ガーティレイが不服そうな顔でこちらを振り返る。
「やー、呼び名が長いと戦闘中の声掛けとかで困るんで、こっちのが良いと思うんすよね。カッコイイし良い響きだと思いません? ほら、ガーさん」
「ガーしゃん」
「ガーさん」
「下衆オーガ」
「ね?」
「おい、最後なんだ! 最後!」
僕らはシシィに指差され、順に名前を呼んだ。ヴィオレッタだけが違う呼び名で呼んだけど、これが逆に良かったのか、ガーティレイの呼び名は「ガーさん」ということで落ち着き、ヴィオレッタも「ヴィさん」で良いということになった。
「じゃあ行きましょう」
ルゥが隠密魔法を解除し、僕以外の全員がトカゲのいる開けた空間の中央へ飛び出した。奥の岩に抱きつくようにして眠っていたトカゲは、バチッと目を開け一目散に天井付近に空いた穴へと走り出す。
ルゥの言った通り、ガーティレイの倍はある巨大なトカゲだった。こんなサイズのトカゲは見たことがない。トカゲというよりほとんど竜だ。小型の盾のような灰色の鱗で全身が覆われ、見るからに硬そうだった。鱗からは大小のトゲが生えていて、背中のトゲのいくつかは大型獣の爪のように太くて長い。体当たりを喰らったら串刺しになりそうだけど、行動から察するにかなり臆病な性格のようだ。
「シシィ、ルゥさん! 妨害!」
「あいよ!」「はいでしゅ!」
声をかける前に弓を引いていたシシィがトカゲの鼻先に矢を射る。岩壁に突き刺さった矢は閃光系だったらしい。一瞬ビカッと光ってトカゲを怯ませた。怯んだトカゲの腹の下に、ルゥが魔法で緑色の直方体を生成し、ドンとトカゲを空中に押し出した。
「ヴィさん、喉を!」
「言われなくとも!」
ヴィオレッタは落下してきたトカゲ目掛けて飛び上がる。細剣が高速で紫色の軌跡を描く。
ギィンと金属音に似た音が響く。トカゲは「ゲッ」と声を上げたが、傷は負っていなかった。
腹の側も背中と同じ、硬い鱗に覆われているらしい。ヴィオレッタは舌打ちをして、地面にひっくり返ったトカゲの上から喉を突き刺しに行ったが、それでも結果は変わらなかった。
「おい、クソ犬、斧をよこせ。あんな剣では無理だろう」
ガーティレイは入り口を守っている僕を振り返りニヤリと笑う。攻撃に回りたくて仕方がないという様子で、肩をむずむずとさせている。だけどガーティレイの斧もヴィオレッタの剣と斬れ味は大差ない。僕の魔装の爪なら貫けるだろうけど、今の僕の役割は司令と補助だ。
「いえ、手が離せないので、このままいきます。ヴィさん、口の中か、目を狙えますか?」
「くっ、簡単に言ってくれる……」
ヴィオレッタは逃げ出すトカゲを必死に追いかける。向かってきてくれるなら狙いようもあるが、背中を向けられていては難しい。シシィとルゥが逃走を妨害しつつ、ヴィオレッタの方向へ誘導しようとしているけど、トカゲも必死なため思うようには動いてくれない。巨体の割には動きが素早いから回り込むのは困難だし、回り込めたとしてもたぶんまぶたも硬いだろう。
「シシィ、ルゥさん、あいつの感覚を狂わせたりってできない?」
まずは動きを止めたい。僕らや出入り口の位置を把握できなくなってくれれば、押さえつけるスキも生まれるはずだ。
「んじゃ、効くかわかんないけど、こいつをぶつけてみるかなっと」
シシィが先端に袋のついた矢を放ち、トカゲの眉間に当てた。当たった瞬間に袋が開き、中から粉末が飛び出す。
「シ、シシシシシャーーーーー!!」
トカゲは絶叫し、頭を振ってもがき出した。唐辛子の匂いがする。目と鼻に入ったんだろう。かなり痛そうだ。
「ガーさん、合図したら盾と壁であいつ挟んでください!」
「捻り潰してくれるわ!」
「いや、潰すのはちょっと……。あ、今です!」
「どおぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁーーーーー!!」
ガーティレイが咆哮を上げ、立ち上がったトカゲに突進する。トカゲはズドンと大きな音をさせて壁に押し付けられたけど、突進の衝撃よりも唐辛子のほうが痛いのか、変わらず頭を振ってシャーシャーと叫び声を上げている。
ヴィオレッタはその機を逃さない。高く飛び上がり、大きく開いたトカゲの口に深々と細剣を突き刺した。甲高い断末魔が洞窟に響き渡る。トカゲは無茶苦茶に暴れて、ガーティレイとヴィオレッタを弾き飛ばしたが、やがて力尽き動かなくなった。
「ふう。みなさん無事ですか?」
トカゲが絶命していることを確認して、僕はみんなを見回した。幸い誰もケガはしていないようだ。
「よーしよしよし! なかなか見事な指揮だったじゃないかフューリ」
「ほ、本当ですか、良かったです。えへへ」
再び姿を表したオルナダ様が駆け寄って来たので、僕はひょいとその身体を抱き上げてくるくると回った。わしわしと撫でられて耳がくすぐったいけど、とても嬉しい。
「おいこらオルナダ、私も褒めろ!」
「そうだな。お前らみんなよくやったぞ」
「違う! 私だけ褒めろ、私だけ! というかこのクソ犬、いつまでオルナダを回す気だ! 降ろせ!」
「え? 嫌です」
「こっちによこせ!」
「嫌ですってば」
僕はオルナダ様を抱えたまま、ぴょんぴょんと後ろに跳んで、掴みかかってくるガーティレイの腕を躱す。
「こら小童。無駄な体力を使うと、この先へばりますわよ?」
「ふぎゃ!!」
ガーティレイはキャサリーヌに足をかけられて派手に転んだ。キャサリーヌは転がったガーティレイの背中にどっかりと座り込んで「さて、さっきの連携はまぁまぁよろしかったですが……」とお説教モードに入る。
「フューリがいなければこのパーティは確実に全滅でしたわね。周囲への警戒が足りなすぎますわ」
「そ、それはどういう意味でございますか閣下」
「そうだ! 訂正しろ!」
ヴィオレッタが狼狽えた様子で質問し、ガーティレイはキャサリーヌの下でもがきながら怒鳴った。キャサリーヌは残念そうに首を振って、すっと洞窟の隅を指さした。戦闘中に僕が駆除した、拳大の蜘蛛が一匹潰れている。
「げ! めっちゃいっぱいいるじゃん!」
辺りを見回したシシィが、あちこちで蜘蛛が潰れているのを見つけて声を上げた。ガーティレイとヴィオレッタは蜘蛛の死骸に囲まれているとわかるや、見る間に顔を青くさせた。せっかく言わないでおいたのにと、僕は唇を噛む。
「おそらく熱に惹かれてやってきたのでしょう。行動や身体の特徴から、毒を持つ可能性が非常に高い種と言えますわ。飛びかかられていたら、死んでいた可能性もあるんですわよ」
「お前らに毒がかからないよう、ちゃんと下に落としてから潰してたんだぞ。的確な指示をだしながらな。なかなかやるだろう?」
「あー……、いやー……、そのぅ……。手が空いてるの僕だけだったので、当然のことをしたまでというか……。それに中身を出さない加減に殺すつもりだったので、ほとんで失敗してましてですね……」
オルナダ様が腕の中でふふんと鼻を鳴らしたけど、自分で上手くいったと思えないことを褒められてしまった僕は、嬉しさ以上に気恥ずかしさが湧いた。
その上シシィまで「やっぱお前、冒険者向いてるって! 絶対私らとパーティ組もうな!」と、ルゥと肩を組んでキラキラオーラを放ってくるから、僕は目を泳がせてしまう。
「蜘蛛はなにで潰したんだ? なにか飛ばしてたろ?」
「えと……、ただの石ですよ。これをこうやってビッてしてます」
僕はオルナダ様を左腕に抱え直して、ポケットの小石を鍵型に曲げた人差し指の内側に込めて親指で弾いてみせる。小石は遠くの天井の尖った岩の先に当たる。岩はビシッと音を立てて真ん中で縦に割れ落下した。
どうも最近、力加減が上手くない。僕は思わず顔を顰めるけど、背後では「おお~」と声が上がった。
「指弾ってヤツね。まぁまぁの腕なんじゃない? べ、別に褒めてないんだから勘違いしないでよね!」
「近接も遠距離も指揮までこなせるなんて、フューくんは万能型なのね。素敵。うちのケイシイとは大違い」
「なぜボクを引き合いに?」
「絶対パーティ組もうな!」
「ぬははははは。どうだ、羨ましいか? 羨ましいだろう?」
みんなが口々に褒めてくれて、オルナダ様は僕の腕から落ちそうなくらい、ふんぞり返って高笑いをする。僕はなんだか、ハイハイの途中で転んだのに絶賛されたような気分で口を結んだ。ガーティレイかヴィオレッタが「そのくらい自分もできる!」と主張してくれないかと二人を横目に見るけど、ぎゅっと目を閉じて動かなくなっていた。
「まぁまぁ、課題はあるにせよ、ちゃんとパーティとして機能してくれるようになったし、この調子でお願いね。死骸の回収は採掘班から人を回すから、あなたたちはこのまま進んで」
ユミエールがパンパンと手を叩いて出発を促し、ようやく僕は称賛から開放された。
ガーティレイとヴィオレッタを担いで元の筒の道に戻った僕らは、再び隊列を組んで調査を進めた。


第八話公開しました。

アイテムボックスの仕組みが割りと気になります。空間を作り出す系だと、その空間の維持にも大量の魔力消費するんじゃないの?とか。
てか、この回長すぎてつら。

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