2022
19
Aug

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」17


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第十六話の続きになります。

第十六話までのあらすじは以下のような感じです。

魔族たちに装備を強化してもらったパーティは早速猿の群れとの戦闘を開始する。シシィは格下相手の戦闘に楽々勝利しホクホクだったが、魔族らの機嫌を損ねたガーティレイとヴィオレッタは内臓直視の刑に処された。

【登場人物一覧】
フューリ:元狩人でオルナダの飼い犬。人狼とヒューマーのハーフ。
オルナダ:イラヴァールの国王的魔族。
シシィ:フューリの友人のヒューマー。
ガーティレイ:調査パーティメンバーのオーガ。
ルゥ:調査パーティメンバーの人兎。
ヴィオレッタ:調査パーティメンバーのダークエルフ。
キャサリーヌ:調査パーティの指導教官。オーガとエルフのハーフ。
ティクトレア:イラヴァール大臣的魔族。
ヒーゼリオフ:ランピャンのダンジョンマスターをしている魔族。
ケイシイ:ティクトレアの飼い犬をしているエルフ。
ユミエール:オルナダの右腕的エルフ。
ブゥプ:ユミエールの部下の人兎。

以下十七話です。


ランピャン到着から一週間が過ぎた。その間、キャサリーヌが僕らに与えた課題は、冒険者ギルドから受注した依頼への対応と、ランピャンのダンジョン『極拳の塔』の攻略、森の中でのサバイバル訓練だった。
課題の内容を知らされたときの僕らは、パーティランクに見合った依頼を受け、ダンジョンで景品を拾い、そうして稼いだお金で食料や物資を調達して、全員協力の下で野営を行うんだろうと思っていた。だけどキャサリーヌ曰く、それではまるで訓練にならないらしい。ということで僕らは、まだ冒険者ライセンスを持っているキャサリーヌが個人的に請け負ったDランクやCランクの依頼をこなし、ヘトヘトになってからダンジョンに挑戦、そして稼いだお金のほとんどを取り上げられ、野営は一定の距離を取って各自で行うという訓練をすることになった。
キャサリーヌが持ってくる依頼は、魔物の討伐や、手配犯の捕縛など、戦闘力が問われる上に、狩る側に不利な場所に出没するとか、特殊な個体がいるなどで、達成が困難なものばかりだった。ダンジョンではなんとか最上階に到達しても、ヒーゼリオフに軽くあしらわれて攻略はできず、クリア報酬はなし。依頼の報酬やダンジョンで得たアイテムを換金して得たお金はキャサリーヌによってプールされ、渡されるのはほんの小遣い程度。十分な食料を買えば、ほかに回すお金がなくなり、ほかへ回せば食料が足りなくなる。狩りや採取で食料を確保できれば良いけど、全員がそれをできるわけじゃない。余分に獲物を獲って分けたいところだけど、協力は助言に留めるようにと厳命されたため、差し入れは叶わない。おかげでみんな日に日に疲労と空腹でやつれていった。
僕は僕で、午前中は技術交流の講師に駆り出され、午後は依頼とダンジョン攻略をこなし、夜はみんなが獣や盗賊に襲われないか、焚き火が消えて凍えていないかと気を揉んで疲れていた。胸が重たくて食事が喉を通らないし、頭がぼんやりして、皮剥ぎのときに脂肪を余分に剥いでしまったり、止めの位置が数ミリずれたりと失敗続き。もうなにもしたくなくて、一日中ベッドで丸まって、オルナダ様のお顔や匂い、感触、味を思い返していたい。最近、頭に浮かぶのはそんなことばかりだ。
差掛けシェルターの下で、枝と毛皮で作った寝床に突っ伏し、肺からどろどろとした空気を絞り出す。
「おーい、フューリ! これ見ろよ!」
顔を上げると藪の間から小ぶりの猪を持ったシシィが出てきた。どうやら狩りの成果を見せに寄ったらしい。ベルトには草で吊るした魚をたくさんぶら下げているし、今日は大猟だったようだ。シシィは昔から僕と一緒に母さんのサバイバル訓練を受けていたから、あまり食料調達に苦労はなさそうだったけど「毎日焼き魚ばっかで飽きた」とぼやいていた。この猪は久しぶりのご馳走というわけだ。
「今日食べるなら早く料理しちゃったほうが良いよ」
「わーってるって、死んだら死後硬直始まっちゃうってんだろ。気絶させただけだから大丈夫だよ」
起き上がってシェルターを出ると、シシィは誇らしげに猪を掲げてみせた。
「でさ。こいつどうやって食うのが一番美味いかな? 心臓とかは解毒皿使って生で食うつもりなんだけど。ほかはなにが良いと思う?」
「魚もいっぱいあるし、今日は内臓だけにして、残りはスライムシートに包んで土に埋めといたらどうかな? 死後硬直が解けたら解体して塩漬けにすれば、しばらく食べられるよ」
「うー……。そうしたほうが良いんだろうけど、もう魚はなぁ……」
「そう言わないでさ。食べられてるだけ、マシなんだし……」
「それはまぁ、そうなんだけどさぁ……」
僕らは首を回してガーティレイのキャンプがある方向を見る。結構離れているはずなのに、獣のイビキのような腹の音が大きく響いていた。
サバイバル訓練にはみんな苦労させられていたけど、ガーティレイの状態は特に酷かった。身体が大きく必要な食事量も多いのに、渡されるお金はみんなと同額。この時点で飢えるのが目に見えているのに、食費を削ってまで酒を買い、「ちんけな獲物なんぞ食えるか!」と言って無駄に大きい肉食獣なんかを狩り、なんの処理もせずに直接火に焚べて焼くものだから、焦げたところと生焼けのところを避けて食べることになり、不味い上にほとんど食べられるところがないという有様だ。そういうわけでここのところのガーティレイは「なんて不味いヤツだ!」と焦げた肉を蹴飛ばしては、酒を飲んで不貞寝するという生活をしていた。何度かほかのメンバーから食料を盗もうともしていたけど、狩りや調理の最中はキャサリーヌが止めに入ったし、食事のときは一応みんなで集まって食べていたので、成功することはなかった。
「相談してくれたら解体の仕方教えるし、美味しく食べられる方法も考えるのになぁ……」
「いや、ヴィさんもだけど、内臓の見た目がダメみたいだから教えたってできないだろ。てかヴィさんに至っては、もう狩りもしないで土器作りに没頭してるし……」
ヴィオレッタは渡されたお金のほとんどを、装備のメンテナンスに使い、食費を削って野営道具購入の資金を貯めていた。見かねた僕が、テントや食器がなくても、木や土を使って代用品を作れることを教えると、よほど性に合ったのか、食事は買えるもので済ませ、あとはひたすら土器やレンガを作る生活を始めてしまった。喜んでくれたのは良かったけど、毎日野菜と米のお粥ばかり食べているので、ちょっと心配だ。
ちなみにシシィとルゥも、先の二人同様に金銭的な余裕はない。二人共、罠で動物を獲れるし、解体もこなせるから食料の確保はできていたけど、肉体的戦闘力に欠けるために、寝込みを襲われないための防御アイテムが必須だったからだ。
「それにしても猪なんてよく獲れたね」
「ふふん。それはこの秘密兵器のおかげだぜ」
僕が獲物を褒めると、シシィは封蝋印のような物体を取り出した。金属製のヘッド部分は大きく、シシィの握り拳くらいの直径がある。ハンドルは木製だ。
「これをこうやって地面に押し付けて魔力を流すと、トラップができんのさ。ここを踏むと足を固められて動けなくなるってわけ。やってみ」
僕は言われるまま、薪用に拾ってきた枝でその場所をつついた。枝が地面に触れた瞬間、土が円柱形に伸びて塊り石になって、ガッチリと枝を固定する。軽く引っ張ったり叩いたりしてみたけど、抜けたり割れたりするようすはない。この辺りにいる動物ならまず抜け出すことはできないだろう。
「これは良い罠だね」
「結構苦労したよ。術式考えて原型作って、鍛冶屋に見積もりとって、金貯めて……」
「え、術式から自分で作ったの!?」
「魔術ならヒューマーでも多少なんとかなるからな。地道に勉強してるのさ。おかげでやっと肉が食える」
しみじみとした口調が、シシィの苦労を物語っていた。
シシィは木や蔦を使用した罠の作り方も知っているはずだから、たぶん日中に依頼をこなしたあとでの設置は体力的にキツイとか、強度が足りなくて獲物を逃したとか、設置したけどかからなかったとか、そういうことがあってこの魔術の罠を開発したんだろう。ヒューマーにとってはかなり厳しい訓練だろうに、工夫して乗り切っているシシィは本当にすごい。
それに比べて僕はなにをしてるんだろうか。最近では訓練でも講師の仕事でも失敗ばかりだし、こんなことではオルナダ様の飼い犬失格じゃないか。
「ま、そういうわけで、今日は私も夕食豪勢だからさ、お前も遠慮しないでちゃんと食えよ? 最近普段の半分も食ってないだろ」
僕が視線を落とすと、シシィは僕の顔をずいと覗き込んだ。どうやら猪を見せに来たんじゃなく、僕を心配して寄ってくれたらしい。
「ありがと。でも僕もらったお金、ほとんど買い食いに使ってるから大丈夫だよ」
「わかってるけど、それでホントに足りてるか? どうせヤツらが来るから、お前が食っても食わなくても、惨めな気分になるのは変わんないんだぞ?」
「それはそうかもしれないけど……」
僕は言葉を濁して口を閉じる。「最近全然食欲がなくて……」なんて言ったら余計に心配させてしまう。どうにか話題を変えなくては。と思ったけど、近付いてくる足音からするに、その必要はなさそうだった。
「おやおやおや。フューリにシシィじゃないっすか。おたくのチームは協力禁止じゃにゃかったかにゃあ?」
先程シシィが話題に出した〝ヤツら〟が目の前に現れた。ケイシイ率いる二十人のパーティだ。
ティクトレアから僕らのライバルにと派遣されたパーティなので、ケイシイたちとはイラヴァールを出発したときからわりと一緒に行動していて、ランピャンに着いてからは、ライバルらしく僕らと同数の依頼を受注して達成数を競い、夜もすぐ近所にキャンプを張って食事やシェルターの質を競っていた。ライバル役をするという任務の一環なのだろうけど、毎晩「うちは今日も依頼全件達成しましたけどおたくは?」とか、「今晩はステーキを食べながら高級ワインで乾杯する予定なんすけど、そっちの夕食は? 草かな?」とか煽りに来るものだから、僕らパーティのストレスは増し増しだった。僕じゃなくてもわかるくらい、きちんとした食事のいい匂いが漂ってくるものだから、みんなひもじそうな顔をするし、ガーティレイは怒り狂って襲撃をかけようとしては、キャサリーヌに引っ叩かれる。また今日もそうなるかと思うと、今から気が滅入った。
「関係ねーだろ、ケイシイ。取り巻き連れてとっとと失せやがれ。お前をはっ倒してやりたいのはガーさんだけじゃねーぞ」
「いやだなぁ、勘弁してくださいよ。ボクも仕事でいたしかたな~くしてることなんすから~」
「んな最上級に汚ねぇ笑顔で言っても、説得力ねぇんだよ!」
うっへっへと笑うケイシイに、シシィは思い切り中指を立てた。訓練が始まる前まで二人の仲は良好だっただけに、ケンカされると悲しくなってしまう。だけど僕にはもうシシィを宥めようとか、そういう気力は残ってない。頭の上の耳をペタリと寝かせ、言い争いが早く終わるよう祈った。
「こら、ケイシイ! 失礼な真似をするんじゃありませんっていつも言ってるでしょ!」
直後、ティクトレアが転移で目の前に現れて、ケイシイの耳をぎゅっと引っ張った。ケイシイが「いでで」と悲鳴を上げるのを聞いて、シシィはいい気味とばかりに鼻を鳴らす。
「ごめんなさいね、人をおちょくるのが好きな子で……」
「ティク様はなんでこんなの飼ってんすか?」
「本当よね……。わたくし自身も不思議に思うわ……」
「またそんな。ボクのテクが最高だからって正直に言ってくださいよ」
「それだけは絶対にないわ」
「お二人がそんなやり取りしてんのも、私的には驚愕なんすけどね」
「シシィは見る目がないんすよ」
三人は軽口を叩きあってケタケタと笑う。どこに仲直りポイントがあったのか僕にはわからなかったけど、シシィとケイシイはもう険悪な感じじゃなくなっていた。
「つーか、ティク様。こいつらに豪勢な飯食わすの辞めてくれません? こっちは現地調達の食事なのに毎日あんな美味そうな匂いさせれたらたまんないっすよ」
「ボクらはそちらと違って、いつティッキーやヒー様が様子を見に来ても良いように備えてないといけないんです~。てかそっちだって予算たんまり出てるでしょ? なんで使わないんすか?」
「うちは訓練のために来てるから、滞在中の費用とかは自分たちで稼がなきゃなんねーの! それもこのサバイバル訓練のためにほとんど取り上げられてるけどな!」
「経費削減の狙いもあるんでしょうね。予算はなるべく新ダンジョンのほうに回したいでしょうし。わたくしはケイシイ以外の愛犬たちがひもじい思いをしないか心配でお金を多目に持たせて、こうして時々様子も見に来るけど……」
「はぁ~、オル様んトコって意外と厳しいんすね。いやぁ、うちはぬるま湯で良かったなぁ! って、今なんと?」
黙って話を聞いていた僕は、段々と悲しい気持ちになっていった。僕だってオルナダ様に様子を見に来てほしい。会えないことで確実になにかが減っていっている気がする。
「ちょっとフュー、なにしょげてんのよ」
ため息を吐いて俯くと、目の前にヒーゼリオフが現れた。
「いえ、その、別にしょげているわけでは……」
「アホほどでっかいため息ついてたじゃない。もう訓練に音を上げてるわけ? べ、別に心配してるわけじゃないわよ? これは嫌味で言ってるだけなんだから」
顔を上げるとヒーゼリオフは腰に手を当ててそっぽを向いていた。相変わらず変わった話し方と態度をする人だ。
「それがヒー様、聞いてくださいよ。こいつほかのメンバーがろくなもん食えてないからって、変に気を使って自分も食う量減らしてやがるんです。止めろって言ってやってくんないっすか?」
「はぁ? アンタそんなバカなコトやってたの?」
「あ、いや……」
「フューくんのお利口なところは可愛いと思うけど、さすがにそれは良くないわ」
「え、あの、そういうわけでは……」
「ということで、こいつに十分食わせるためにも、ケイシイんトコと、私らでパーティ対抗料理対決とかやったらどうかと思うんすけど、キャサリーヌ教官に提案してもらえませんかね? んで、審査員してくださいよ」
「あら、それはいいわね。ダンジョンでの食事、美味しかったし」
「そうね、久しぶりにフューのご飯を食べてあげてもいいわ」
気を使って食べていないというのは完全な誤解なんだけど、シシィはそれを口実に妙なお願いをして、ティクトレアたちは承諾した。ケイシイたちのパーティは料理人を連れているのだから勝負になるはずがないし、ダンジョンでの食事は僕が作ったわけじゃない。なのにティクトレアもヒーゼリオフもそのことには一切触れない。そして流れるようにキャサリーヌのところへ向かい、ヒーゼリオフが持っていた高級酒で買収して合意を取り付けてしまった。事前に打ち合わせていたのかと思うほど、スムーズに話が運び、気付けば僕らは一箇所に集められて、料理対決のルールを説明されていた。
ルールは非常にシンプルだった。まずこれ以降、今いる森以外から食料を調達しないこと。そして、対戦相手の妨害をしないこと。基本的にはこの二つ。僕らの場合は、これにキャサリーヌが追加した、僕の手を借りないというルールが追加されている。僕らの食事はあくまで訓練なので、僕が一人で料理をしてしまったら困るのだそうだ。僕はあくまで司令役で、手を出したらその時点で失格ということになった。
「このヒー様たちが審査員を務めるんだから、気合入れてやんなさいよ! フューの指示は完璧に遂行しなさい! 不味いもの出したら承知しないからね!」
「どっちのパーティも頑張ってね。一応、材料の違いも考慮してフェアな採点をするつもりだから。ちなみに勝ったほうには、賞品にお酒をたくさん用意してるわよ」
「よぅし、貴様らは飯を作れ! 私はヤツらをギッタギタにしてきてやる! 今日は浴びるほど飲むぞ!」
「ガーさん、気持ちはわかるけど、それやったら失格っすよ」
「負けても今日は美味しいご飯が食べられましゅね」
「殿下、我が手足となります。存分にお使いください」
「その辺の草を使うしかないパーティが、うちのシェフに敵うわけないと思うっすけど、まぁ、頑張ってくださいな~」
ヒーゼリオフとティクトレアに送り出され、料理対決が始まった。ケイシイは勝利を確信しているらしく、余裕のある態度でパーティを引き連れ、自分たちのキャンプ地へと戻っていった。


第十八話公開しました。

焚き火の組み方とかもっとサバイバル知識なんかを入れたかったけど、長くなるのでカットしました。次はお料理回ですw

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MURCIELAGO -ムルシエラゴ-

 
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