2022
14
Oct

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」23


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第二十二話の続きになります。

第二十二話までのあらすじは以下のような感じです。

ヒーゼリオフと一対一の対戦をすることになったフューリたち。一番手のガーティレイは斧を捨て素手で戦いに挑み、善戦するも圧倒的な実力のヒーゼリオフにあっけなくやられてしまう。二番手のフューリは相手に怪我をさせないかが心配で対人戦では実力を発揮できない。フューリは悩んだ末、魔装をハッタリに使い、ヒーゼリオフの身体にダメージを与えないように触れて勝とうとするが、咄嗟にパワーを上げたヒーゼリオフに返り討ちにあってしまう。しかし、一割以上の力を使うのは反則だったため、試合はフューリの勝利となった。

【登場人物一覧】
フューリ:元狩人でオルナダの飼い犬。人狼とヒューマーのハーフ。
オルナダ:イラヴァールの国王的魔族。
シシィ:フューリの友人のヒューマー。
ガーティレイ:調査パーティメンバーのオーガ。
ルゥ:調査パーティメンバーの人兎。
ヴィオレッタ:調査パーティメンバーのダークエルフ。
キャサリーヌ:調査パーティの指導教官。オーガとエルフのハーフ。
ティクトレア:イラヴァール大臣的魔族。
ヒーゼリオフ:ランピャンのダンジョンマスターをしている魔族。
ケイシイ:ティクトレアの飼い犬をしているエルフ。
ユミエール:オルナダの右腕的エルフ。
ブゥプ:ユミエールの部下の人兎。

以下二十三話です。


【シシィ 六】

長いようで短かったランピャンとの技術交流が終わり、私たちパーティはイラヴァールへと帰還した。例によってフューリが一人で先に帰ってしまったので、私たちは三日遅れで外門をくぐった。
停留所へ降りると、同時刻に到着した大型竜車からゾロゾロと旅行者たちが降りてきた。ちょうど昼時だったため、一人、また一人と客引きに捕まって、南側にある観光客向けの繁華街へと連れられていく。大きな任務を終えたばかりだし、たまにはクソ高い食事もアリかと、キャサリーヌに報酬の支払い予定を尋ねると「サバイバルのために預かっていた分ならすぐに渡せますわ」と、その場でステータスボードを操作して報酬を振り込んでくれた。ランピャン通貨のままだったから、イラヴァール通貨に両替するときに減ってしまった印象だったけど、まぁまぁ良い額だった。
「せっかく帰って来たし、みんなで南側の豪勢な飯でもどっすか?」
「我は構わんが……」
「バカ言え! 南で飯なぞ食ったら、秒で破産するわ!」
「ガーしゃんはいっぱい食べましゅもんね」
「店を選べば破産はしませんわよ。どれ、ワシが良い店を紹介して差し上げましょう」
「やった! おごりっすか?」
「ほっほっほっ。もちろん別会計ですわ」
「ふん。年寄りのクセにケチくさ、ぐふぁ……っ!!」
「では皆の衆、先に風呂屋へ行きますわよ。砂だらけで行ったら門前払いですわ」
なんてやり取りをして、私たちは中央地区に向けて歩きだした。はずだったんだけど、私の足はなぜか宙に浮いて、前に進めなかった。というよりものすごい勢いで、みんなの背中が遠ざかっていく。
うん。これは誘拐だな。また誘拐だ。なんで私に用があるヤツは、どいつもこいつも私を拉致りたがるんだクソが! 思う間に景色はびゅんびゅんと変わり、あっという間にフューリの小屋まで連れてこられた。
「……私、これから飯行くとこだったんだけど?」
「ご、ごめんよ、でもすぐ相談したくて……」
ムスッとしてみせると、フューリは半べそでせっせと食事をテーブルに並べた。デカいパン、玉ねぎのスープ、潰した芋に、塊の肉、卵に、チーズに、焼き野菜。どうやら到着後すぐに拉致るつもりで、ちょっと豪勢な食事を用意していたようだ。チーズのラベルを見るに、食材にも気を使っていることが伺える。
要求する前に用意されていては、なにも言えることがない。私は「わかったよ」と息を吐いてスライム風呂を借り、大人しく食卓についた。
「んで? 今度はどうした?」
「それが……、また長いことイラヴァールを離れる任務に就かされそうで……」
「マジ!? やった、いつからだ!?」
「パーティの任務じゃないんだ……。なんとかっていう石がほしいから僕一人で取ってこいって……。……うぅ、ぐす……っ」
フューリはパンを切り分けながら、べそべそと泣き出してしまった。こいつは昔から泣き虫だけど、最近はこんな風に泣くことはめっきりなくなってたので、私は少々面食らった。
「な、なんだよ……。そんなに悲惨な任務なのか?」
「うぅ……。街どころか村もない未開拓の大陸で、行って帰るだけで三ヶ月かかるって……」
「うわ、そりゃ確かにひでぇわ……」
「そ、そんなに長くオルナダ様と離れたら、僕確実に死んじゃう……」
「あぁ……。お前の悲惨ポイント、やっぱソコなのな……」
普通は人っ子一人いない未開の地に単独で放り出される過酷さを嘆くだろうに、フューリのヤツはオルナダと離れることが辛いだけらしい。
「ま、まぁ、あれだ。オル様もお前ならやれると思ったから送るんだろ? ちゃんと帰って来れるって……」
「三ヶ月だよ、三ヶ月!! 今回だって死にそうだったのに、そんなの絶対耐えられないよ!!」
ゴンッと額をテーブルに打ち付け、フューリは突っ伏してしまった。
確かにランピャンでのフューリのコンディションはなかなかに酷いものがあった。最初のうちはなんだかんだで週に一度はオルナダがフューリの様子を見に来ていたからマシだったけど、それがなくなった後半は日に日に食が細くなるわ、表情が暗くなるわで、訓練や試合の最中にも、崖から落ちたり、攻撃をモロに食らったり。挙句の果てに帰りの船では、早くイラヴァールに着きたいからって何度も海に飛び込んで、そのたびにキャサリーヌに引き上げられていた。私の印象では最後にオルナダと会って一週間くらいから調子を崩しだし、二週間もすると下手をすれば死ぬんじゃないかってくらい、無気力かつ、注意散漫かつ、無鉄砲かつ、バカになる感じだ。もはやデバフと言って差し支えないだろう。オルナダめ、うちの主力になんてことをしてくれるんだ、まったく。
ともかく、これが一時的なことでなく、今後もずっと続くとするとかなり問題だ。フューリとは末永く一緒に冒険して行きたいと思っているのに、これじゃ活動範囲がイラヴァールから往復一週間半圏内に限られてしまう。それにフューリの言うように、オルナダに命じられた長期の任務で死ぬってことも十分ありうる。いくらなんでも友達を死なせるわけにはいかない。
「よし、ここはあれだ。勇気を出して断っちまえ。一人じゃ不安なら一緒に行ってやるからさ」
ぽんと肩に手を置くと、フューリは首を横に振って「それはダメだよ」と小さく呟く。
「なんでだよ。確か魔族って他種族への無理強い禁止だろ? 行きたくないって言えば中止してくれるって」
「だ、だって『寂しいからおつかいできません』なんて、あまりにカッコワルイし、『任せといてください! チョチョイのチョイです!』って言っちゃったから……」
「なんでそんなアホな見栄張るんだよ……。死ぬよりカッコワルイのがマシだろ」
「だ、だって、僕まだ具体的な恩の返済方法を思いつけないし、やりたいことも特にないから、言われたことをやるくらいしかできないし……」
「それで死んだらなにも返せないだろうが。謝って撤回してこい」
「ダ、ダメだってば。そんなのオルナダ様の犬失格だし、それにもしオルナダ様にガッカリされて、もういらないってクビにされちゃったら……」
そこで言葉を切ると、フューリは見る間に青ざめて、
「任務に行くまでもなく死んじゃうかも……」
と、涙を流しながら震えだす。想像するだけでも怖くてたまらないって様子で「僕が死んだら母さんには上手く言っておいて」なんて言い出す始末だ。ヒーゼリオフに勝てるくらいのつよつよ狩人がなにを言ってるんだと思うけど、それほどオルナダのデバフが強力だってことだろう。ここまでくるとほとんど呪いだ。まったくオルナダめ、うちの主力になんてことをしてくれるんだまったく。
「はぁ……。んじゃあ「行きたくない」とか言わないで、任務を中止させる方法を考えないといけないってことか……」
「な、なにか良い方法ある!?」
フューリはすがるような目を私に向ける。
「うぅーん……。そうだ、ユミエールを使うのはどうだ? あの人ならなんかあったときのために、お前をイラヴァールに置いときたいとか思いそうだし。上手いこと味方につければオル様を説得してくれっかも。なんてったってヒーゼリオフを倒せるくらいの戦闘力があるんだしな!」
「あぅ……。そ、それが……、石をほしがってるのがユミエールさんだから……、それは無理だと思う……」
「え? てことはその任務、都市プロジェクトか?」
「わ、わかんない……。で、でもそういえば人材がいなくて凍結してたとかなんとかって言ってた気がするかも……。「フューリちゃんにお願いできたら嬉しいんだけど」ってオルナダ様になにかの資料をいっぱい見せてて……。どういう任務か聞いてみたら、三ヶ月の任務の他にも、一年かかるのとか、二年かかるのとか、ほかにもたくさんあるみたいで……」
どうやらこの騒動は、フューリの戦闘力が再評価された結果の産物だったようだ。だからって単身で送り込むかよ! って感じだけども。人材がいなくて凍結って話だけど、フューリ一人でなんとかなるんなら、イラヴァールに人材がいないってのは妙な気がする。パーティを送るだけの物資がないとか、なんか理由があるのか? でもそれなら新ダンジョンの建造なんてできないよな?
って、こんなこと考えても仕方ないか。重要なのはフューリの任務行きを阻止することだ。
フューリが任務に駆り出されて捕まらないってのは、私にとっては冒険に出られないってのとほぼ同義だ。仲間に襲われる危険が高いヒューマーは、最低一人は信頼できる相棒がいないと、パーティ組むのもままならない。だから信頼できる上に戦闘だけでなく、探知やサバイバルまでこなせるフューリの存在は無茶苦茶貴重なのだ。絶対に死なせるわけにはいかない。
でもどうする? 事情を一切説明せずに、オルナダとユミエールの意向を覆せるような上手い言い訳なんてあるのか? しばらく考えて、私は一つの案を思いついた。
「ティクトレアとヒーゼリオフを使おう」
よし、と顔を上げると、フューリがぽかんと口を開ける。
「前にちらっと話したろ? あの二人、私らのパーティを見込んで投資したいって言ってくれてんだよ。だから主力のお前がよくわかんない任務に駆り出されるってなったら、あの二人にとっても都合が悪いはずだろ? だからなんとか協力してもらえるように頼むんだよ。さすがに相手がオル様やユミエールじゃ、私一人でどうこうできるわけないしさ」
「そ、そっか……。で、でも二人共偉い人でしょ? そんなこと頼んで大丈夫かな……?」
「さぁな。断られるかもしんないけど、頼むだけならタダだろ。ステボで連絡しとくから、OKもらえたら行ってくるわ。私ひとりのが話早いと思うから、お前は待っとけ」
「う、うん、わかった。いつもホントありがと、シシィ……」
私がパンに手を伸ばすと、フューリはいくらかほっとした様子で目元を拭って肉を切り分け始めた。

昼食をたらふく食った私は、フューリに送ってもらって、寮の自室へと戻ってきた。ごろんとベッドに横になってステボを開き、ティクトレアとヒーゼリオフに送るメッセージの内容を考える。
あの二人はフューリを口説く機会に飢えてるから、長期間イラヴァールを離れて度々辺鄙なところに行かされる可能性があると伝えるだけでも協力はしてくれそうだ。けど、寿命のない種族は時間の感覚がぶっ壊れてるから、一週間半を超えると命の危険があるってことはしっかり伝えたほうが良いだろうな。理由はオルナダ欠乏性殺人デバフじゃなくて、単なるホームシックってことにしとこう。あとは私の有能アピールもさり気なく入れとけば完璧だ。
「えーと、ティク様、アンド、ヒー様、緊急事態です、まる。さっきフューリからこんな相談を受けたんですが~……っと。よし、送信。あとは連絡来るまで、ステータスのチェックでも……」
「ちょっと、シシィくん! これどういうこと!?」「そうよ! 説明しなさい!」
「うえぇ、早っ……。てか送った通りっすけど、わかりにくかったっすか?」
寝返りを打つ間もなく転移してきたティクトレアとヒーゼリオフに驚いた私は、思わず壁際に飛び退いた。二人は我競うようにして私のメッセージに対して如何に困惑したかと捲し立てるけど、同時に喚かれるものだからまったく聞き取れない。私は「落ち着いてください」と二人に向かって両の手のひらを向け、ひとまず深呼吸をさせた。
「は~い、吸って~」
「「ひゅぅぅぅぅぅ……」」
「吐いて~」
「「はぁぁぁぁぁ……」」
「落ち着きましたか?」
「ふぅ。まぁね。ていうか、アンタの部屋狭すぎじゃない?」
「一番安いランクの個室っすからね」
「シシィくんはヒューマーだから大部屋には向かないものね。なんにしてもここじゃ話し辛いから移動しましょ」
ティクトレアがぽんと手を打つと、ベッドと収納しかない狭苦しい部屋が、パッと緑豊かな庭園に変わる。南側地区の中央にある迎賓館へと転移させられたようだ。
迎賓館といえば聞こえはいいが、実際のところ、ここはティクトレアの私物のような屋敷で、普段はティクトレアとその飼い犬たちが、管理という名目で住んでいるらしい。真っ白な大星石で作られたウラクス様式の建物は、どこぞの王宮のミニチュア版かってくらい豪華絢爛だ。周りをぐるりと囲む庭園も、イラヴァールが砂漠のど真ん中にある都市だってことを忘れさせるくらい青々として、花壇には色とりどりの花が咲き誇っている上に、前庭には噴水まである。間違いなくイラヴァールで一番ゴージャスな建物だろう。
ティクトレアは駆け寄ってきた執事服のエルフにお茶を入れるよう伝え、「向こうで話しましょう」と花壇の側にあるガゼボを指差した。細い金属の棒を編み込んだようなガゼボは、白く塗装され陽の光を反射して煌めいていた。私は中にある同じ色の椅子に腰を下ろし、向かいに座ったティクトレアとヒーゼリオフに送ったメッセージと全く同じ内容の話をして「フューリを死なせないように一週間を超えるような任務を阻止したいんすけど、ユミエールさん発案でオル様も乗り気ってなると、私じゃ手の出しようがなくて困ってるんですよね」と努めて真剣に訴える。
「それはさっき読んだからわかってるんだけど、さすがにホームシックで死ぬっていうのは大げさじゃないかしら? 可愛らしいとは思うけど」
「そう思うのも無理ないけど、これマジよ、ティク。ランピャンにいる間、アイツどんどん痩せてったし、動きも悪くなったし、時々この世の終わりみたいな顔してたし、最後のほうはもうゾンビみたいになって、精神支配でも受けてるのかって思ったもの」
「そうだったかしら? 可愛さで目が霞んで気付かなかったわ……。え、じゃあこの状況、相当マズイんじゃ……」
「そうよ」
二人はテーブルの中央を見つめて黙り込んだ。この件への対処はこの二人でも難しいらしい。
自分の身体を巡る血液が、すぅっと冷えたような気がした。フューリに命の危機を訴えられても私は、魔族を二人も味方につけているんだから、解決できない問題なんてないだろうと高をくくっていた。でもこの反応を見るに、完全に当てが外れていたのかもしれない。ここに来て初めて私は、事態の深刻さを認識した。
「な、なんとかなんないっすかね? 適当な理由でオル様を説得するとか……」
「理由は伏せときたいんでしょ? ならそれが一番難しいわよ」
「オルの操作に関しては、わたくしたちよりユミエールのほうが何枚も上手だものね。フューくんを説得して正直に言ってもらったほうが良いんじゃないかしら」
「うーん、あいつ、ああ見えて意外と頑固なトコあるんで、それも難しいっすね……」
私たちは揃って唸って空を仰いだ。
沈黙が流れる間にさっきのエルフが戻ってきて、優美な所作でテーブルにティーセットを並べた。フルーティーかつ爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。こんな状況でなければ、深く息を吸い込んで、その華やかさを堪能するところだけど、生憎そんな余裕はない。私たちは三人共、カップに手を伸ばすこともなく、うんうんと唸り続けた。
そんな様子を見かねたのか、お茶の用意を終えたエルフが「お困りごとですか?」と声をかけてきたので、ティクトレアが簡単に事情を説明した。エルフは少し考えてから、ケイシイを使ってはどうかと提案した。
「悪知恵が働きますから、案は出せるでしょう」
「うぅ~ん、あの子の案は詰めが甘いけど……。そうね、今は猫の手も借りたいわ。召喚しましょう」
「ばっかやろ~~~!! 前見て歩きやがれ……って、あら?」
ティクトレアが手をかざした先の地面に紫色の魔法陣が現れ、その中に尻もちをついた姿勢のケイシイが現れた。いつもの執事服ではなく、私と同じ青色の市民制服を着ていた。
「これはこれは。みなさんお揃いってことは、またフューくん絡みかな?」
私たちの顔を見て状況を理解したらしいケイシイは、立ち上がって大げさに首を傾げてみせた。ティクトレアが棘のある口調でどこでなにをしていたのか尋ねるけど、その言葉に被せて「ボクに助言できることがあるならなんなりと」とまた大げさな手振りをつけて発言したので、ティクトレアは眉を寄せつつ事情を説明した。
「はぁ~ん。フューくんは真面目くんっすねぇ。ボクはティッキーにそんな任務言い渡されたら、秒で泣き落としにかかりますよ。それでダメなら仮病っすね」
「うん? ティク様に仮病は効かねーんじゃねーの? 魔法で治せるだろ?」
「ふふふ。わかってないっすね、シシィ氏。ティッキーは結構チョロイんすよ」
「なんですって?」
「いやー、優しい飼い主を持つと得だなって言ったんすよ。それよりフューくんっすけど、どうにかするのは諦めて、「相談に乗るよ~」ってデートして美しい思い出を作って、あとは綺麗さっぱり忘れちゃうってのはどうっすかね?」
「張っ倒すぞ、テメェ!!」
あまりの言い草に、私は思わずバンッとテーブルを叩いて立ち上がる。ヒューマーの私が怒ったところで怖くないんだろう、ケイシイはヘラヘラっとした表情のまま「だって、ヒー様ともいい勝負をした、あのフューくんっすよ? 死ぬトコなんて想像できなくないっすか?」と両手を顔の横に上げてみせた。
「アンタ、話聞いてた? ホームシックゾンビになって性能ガタ落ちするから、簡単に死ぬって言ってんの!」
「いやいやいや、あんな化け物スペック、多少低下したところで、ちょっとやそっとでは死なないでしょ。そんなに心配なら、楽しいお薬出してあげるか、そもそもホームシックにならないように精神魔法でもかけたらどうっすか?」
「それはダメ! 精神魔法は人格にどう影響するかわからないのよ? フューくんのカワイイ性格が、あなたみたいになられちゃ困るわ」
「うわ、それ最悪。そんなことになったらオルも気付くわね」
「ボクとフューくんは、二人共、飼い主にズブズブに甘えたい系飼い犬で、似た者同士っすよ? バレませんて」
「「「いや、確実にバレる」」」
ひらひらと手を振るケイシイに、私たちは揃ってため息を吐いた。
「え~~~……。じゃあ、ティッキーが転移で毎日送り迎えしてあげるとかなら良いんすか?」
「あら、良いじゃない。それなら毎日会う口実にもなるし」
「ダメダメ! それじゃヒー様が絡めないじゃない! 却下よ!」
「てか、それだと、フューリはイラヴァールに着くと同時にオル様のトコに走ると思いますけど、耐えられます? そもそも送り迎えをしてやる口実はどうするんすか?」
「…………ふぅ。あなたの案って、本当に詰めが甘いのよね」
「もう! ボクの案が不満なら、みんながアイディア出せばいいじゃないですかぁ!」
立て続けにダメを出されて、ケイシイは露骨に嫌な顔をした。
送り迎えという案は、転移を使える魔族なら造作もないことだし、良い案と言えるけど、それでは結局フューリは出突っ張りになり、冒険に誘うことはできなくなってしまう。これは私的には不都合だ。もっとこう、単独任務自体を阻止できる作戦じゃないといけない。
「そうだ。オル様がフューリを任務に就かせたがるのって、あいつに戦闘訓練をさせたいからなんで、任務に行かせるよりも良い訓練があれば、そっちを優先してくれるかもっすよね? ヒー様が武術を教えて、ティク様が魔法を教えるってのはどうです?」
「なに言ってんのよ。ヒー様たち魔族は教えるのが苦手って知ってるでしょ? そんなの上手くいくわけないじゃない」
「いや、ホントに教えなくても、教えるって名目で任務行きを阻止できれば、それで良いじゃないっすか。それに憑依って手もあるんすよね?」
そう説明すると、二人の魔族はくっつきそうなほど寄っていた眉を見る間に離していく。
「さっすが、シシィ! これがまともなアイディアってものよね!」
「本当にそうねぇ。シシィくん、ケイシイの代わりにうちの飼い犬にならない?」
「ボクになんの恨みがあるんすか!!」
ヒーゼリオフとティクトレアが私を褒めると、ケイシイが涙目になって掴みかかって来た。「なんの恨みが」って、そんなモン、ランピャン滞在中に散々嫌がらせをされた恨みに決まってるんだが、心当たりがないとでも言うんだろうか? とはいえ飼い犬になるつもりもないので、丁重にお断りをしてから、ケイシイを引き剥がすために「さっき言ってたデートで教えるよーって言うのはどうです?」と、提案してやる。途端にケイシイは目を輝かせて「ほら、ボクの案だって使えるでしょ!? クビにしないで!」とティクトレアに縋り付く。先に私に感謝しろと言いたいところだけど、まぁ、離れてはくれたから良しとしよう。
「じゃあ、その作戦で行きましょう! シシィくんはセッティングをお願いね」
「了解っす。ただ、あいつ、自分の強さに怯えてるみたいなトコあって、あんま戦闘訓練とか受けたがらないんで、そこは上手いこと説得してください。あとは、二人の提案が丸かぶりなのもアレなんで、テキトーにほかの案も提案しつつが良いと思います……って、聞いてます?」
私が補足を述べている横で、二人は席を立ち、庭に出て、「デートよぉ!!」と叫びつつ、くるくると回って踊っていた。デートがよほど嬉しいらしい。私たちヒューマーの恋愛感情とは少し違うんだろうが、二人がフューリを好いているのは間違いないようだ。
今回の件では命を救ってもらうことになるわけだし、フューリのヤツになにか二人を喜ばせられそうなデートテクのひとつも仕込んでおかないとな。
私はやれやれと肩を竦め、二人に「トチらないように先にデートプラン練っておきましょう」と声をかけた。


第二十四話公開しました。

今更ですがフューリはキングオブヘタレです。

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