2019
11
Jul

百合小説

創作百合小説『桜のリング』性別がない世界観での学生百合(ハイエナ)

沖ノブ(ノブ沖)で評判の良かった、同タイトル小説のオリジナルリメイク版です。
完成したら表紙付けてkindleで出版する予定。プライスマッチが通ったら無料、通らなかったら99円になると思います。
ハイエナ適用で性別のない世界観になっている点だけご注意を。

沖ノブ版はこちらへ。

あらすじ

ある事件をきっかけに、大の仲良しだった和田と疎遠になってしまった中学生、槙田。
人気者ぶりに磨きのかかった和田を遠くから眺める日々の中、熱中症でダウンしていたところを和田に助けられ、恋心を自覚してしまい…。

以下から本編です。


例えば

一緒に捕まえた桜の花びら
同じ色の硝子石
帽子をかぶったどんぐり
一度だけ灯したキャンドル

そんな、きらめく時の断片が、ずっとずっと、当たり前に増えて行くものだと思っていた。

きっと、なにかの冗談だと思った。
でなければ、虫の居所が悪いだけだと。
だから、一生懸命、いつも通りにしていた。
遊んでくれなくても、お話してくれなくても、こっちを向いてくれなくても、いつも通り、後ろをくっついて歩いた。悲しくて、目に涙が溜まったけど、意地になって追いかけ続けた。
だけど、あの子は頭が良かった。その上、いわゆるガキ大将でもあったから、子分の子を使って、私をやんわり、別のグループで遊ぶように仕向けてきた。
そうして、私とあの子との時間は、ぷっつり途切れてしまった。
小学五年のときの話だ。

「まーでも、ありゃー、槙田を思ってのことじゃし、そうムキにならんでもえーんじゃねーの」
「ムキになんてなってません!」

ビュッと音をさせて、木刀を振る。苛立ちに任せたせいで、軌道がブレた。
体育館二階の剣道場。中学に上がり、剣道を始めた私は、朝練の前から一人自主練に励んでいた。
早朝だというのに、場内は湯船の中のよう。立っているだけでも汗が滲むほど、熱が籠もっている。当然、窓は全開にしていたけど、風がなければ閉まっているのと大差ない。そんな中で何十本と素振りをしていた私の道着は、すっかり汗を吸ってベチャベチャになっていた。
そんな、ただでさえ不快指数の高いところ、朝練にやってきた同級生が、思い出したくないことを思い出させたので、私はそれこそムキになって否定することになった。

「だいたいあの人、なんでおかむーに伝言頼むんです? 自分で言いに来ればいいじゃないですか」

木刀を振る気が失せた私は、その場にどっかり座り込んだ。小学校からの友人、おかむーこと岡村へ、じっとりした視線を投げかける。壁にもたれて座った岡村は、全く気にしない様子で癖毛のポニーテールを揺らし、カバンから菓子パンを取り出す。「まー、若さまもどえらい頑固じゃしのー」というようなことを、ふがふが、パンを口に入れたまま言った。岡村の言う、若さまとは、私を遠ざけた例のガキ大将のこと。この地方一帯を拠点にしている、ヤのつく自由業の跡取りとして知られているので、そう呼ぶ人もいる。
その若さまが、先日初段に合格した私へのお祝いを、岡村に伝言してきたのだ。それも、新しい竹刀でも買えと、岡村にお金を渡して。
私は無性に腹が立った。
確かに私たちは、あれきり一緒に遊ぶことはなく、中学に上がってからは、ろくに話もしていない。でもまだ、偶然に顔を合わせば、挨拶くらいはする間柄だ。お祝いなら、直接言いに来てくれてもいいはず。それに、贈り物というのは、ちゃんと自分で選んだ物を贈るべきだ。少なくとも、昔はそうしてくれていた。
なのに、人伝に現金をよこすなんて。親戚の子供か、私は。

「くれるー言うとるのじゃけー、もらっときゃーえーのにのー」
「いりませんから。返しておいてください」
「そう言わんと一本だけでも。釣りがわしの駄賃になるけー、助けるー思うて……」

素振りを再開しようと立ち上がった私は、思わず、ギッと岡村を睨んでしまった。咄嗟に背中を向けて、木刀を振るう。

「……伝言頼むくらい口利きたくないなら、放っておいてください。とでも言っておいてください」

二、三度、振り下ろし、気持ちを落ち着けてから、また断った。「槙田は槙田で頑固じゃのー」と、岡村が背後で呆れた声を上げる。

「若さま、ちょいちょい槙田の様子聞きよーし、好きでわしをパシらせとるわけじゃーねーじゃろに」
「だったら! 直接! 来れば! いいん! です! よ!」

木刀を振る手に、余計な力が籠る。もう練習ではなくて、ただ振り回しているだけだったけど、振り続けた。そうすることで、むしゃくしゃする気持ちを、追い出したかった。

「仕方ねーじゃろ、あねーなんがあっちゃー……」

岡村がため息混じりに言ったところで、部の先輩が道場のドアを開けた。
他の部員たちも次々にやってきて、朝練が開始される。岡村との会話はそこでストップになった。嫌な話をされずにすんだ私は、正直かなり、ほっとした。

朝練を終えた私は、ダッシュで道場を飛び出した。これ以上、岡村にしつこくされるのはごめんだった。
近くのトイレに駆け込んで、しっかり汗を拭き、制汗スプレーを噴射した。シューッと音のする間は、自主練と朝練を終えた身体の疲れが、少し軽くなる。でもそれも一瞬のことで、すぐまた吐き気がするほどの疲労感に襲われた。ちょっとペースを間違えると、いつもこうなってしまう。私は体力のない自分と、岡村を恨めしく思った。
保健室に行きたかったが、あいにく一時間目は数学だ。洗い場で流した手で顔を冷やし、鏡を見る。おでこの右端にある傷跡をひと撫でして、縛っていた髪を下ろし、教室へ向かった。
昇降口が近づくと、登校してきた生徒たちの足音や、親しげなおしゃべりの声が次第に大きくなっていく。昔は私たちも、あんな風に普通に会話ができたのに。ふいにそう思った瞬間、外の方から黄色い歓声が上がった。若さまが登校してきたのだ。

「いねー、いねー、若が遅刻するじゃろーが」

色とりどりの頭をしたガラの悪いのが、出入り口に集まった生徒たちを牽制し、道を開けさせた。人垣の間を、若さまが悠々と歩いてくる。
パレードかよ。きゅっと眉が寄った。
大きなギターを背負い、ブレザーの代わりに真っ赤なジャージを羽織った姿は、嫌でも目を引く。腰まである黒髪を掻き揚げれば、それだけでまた、歓声が起こる。
アイドルかよ。口がへの字になった。
その一方、人垣の横を、姿勢を低く、静かに走り抜ける生徒もいる。目をつけられたくないのだ。
私はいよいよ、喉の奥が苦いような顔になってしまう。
この場に居たくない。私も、ねずみみたいにコソコソ逃げる生徒たちに習って、教室へ走ろうとする。瞬間、ぱっ、と目が合ってしまった。
耳に髪をかけた指先を、少しだけ上げるのが見えた。ほんの一瞬、ちょっぴり困ったような顔で微笑んで、すぐさま取り巻き立ちとの談笑に戻る。なにが可笑しいのか、ゲラゲラと騒々しく笑いながら、若さまご一行様は、教室棟へと移動していった。昇降口は途端に、火の消えたようになる。それがなんだか、今の自分と重なったように感じて、ふ、とため息が漏れた。

二時間目が過ぎ、三時間目になっても、授業が頭に入って来なかった。
暑い。体調が悪い。そしてなにより、若さまのことが頭から離れない。
小学生の頃も、あの人は人気者だったし、同時に、怖がられてもいた。けれど、ここまでではなかった。こうなったのは、あの人が積極的に、人気取りをするようになってからだ。
以前は、ファンレターも、プレゼントも、子分にしてくれという不良も、気に入らなければ全部突っぱねていた。それが今は、来る者拒まず。いつも一人で練習していたギターは、いつの間にかロックバンドになり、あちこちでライブをしてはファンを増やしている。
バンドはネット上でもかなり人気で、ドラムを担当する岡村が言うには、音源ばかりか、グッズやチェキも、飛ぶように売れるそうだ。それほどの人気なら、一部でおかしなコトをしでかすファンも出そうなものだけど、イザコザは子分の不良たちを交えた親衛隊を組織して、厳しく監視して取り締まっている。あの人の家の家業や、怒らせると非常に恐ろしいという評判も相まって、とても上手く機能しているらしい。
岡村の「あねーなんがあっちゃ」という言葉を思い出す。あの人がそんなことになっているのには、私にも責任の一端があるに違いない。怖いという評判も、ファンを監視する体勢も、きっとあの事件のせいなのだから。
ずんと頭が重くなった。
私はもう、あの人と一緒に遊べることはないのかもしれない。元々、共通点もなく、ただ遊びに連れ歩いてくれていたから、くっついていただけだった。岡村のように、楽器ができるわけでもない。今さら、剣道や体力を身につけたところで、なんの意味もないんじゃないだろうか。
重たい頭を支えるようにして、おでこに触れる。親指で傷跡をなぞりつつ、何気なく、窓の外を見た。視線の先の渡り廊下に、人影が見える。窓枠に肘をついて、スマホをいじっている。腰に結んでいるのは、あの赤ジャージ。若さまである。
授業中なのにずいぶん堂々としたものだ。私は正直呆れたけれど、重かった頭は少し軽くなった。
何気なくそのまま眺めていると、顔を上げた若さまと目が合った。目が合っているかを確認するみたいに、軽く手を上げた。私も同じように手を上げる。

「なんじゃー、槙田、質問かー?」
「ふもっぱ!?」

いきなり先生に話しかけられ、変な声が出た。一瞬の沈黙の後、教室が笑いに包まれた。ぐあーっと、顔に熱が上ってくる。

「な、なんでもありません……」

消えそうな声で呟き、顔を隠すように教科書を立てた。横目に窓の向こうを見ると、若さまもお腹と口元を抑えて笑っている。私が唇を尖らせると、笑いを噛み殺したような顔で、わるい、と口を動かして見せた。若さまはそのままヒラヒラと手を振り、どこかへ行ってしまったけど、しばらく私の顔は熱いままだった。


続きはこちらへ。

もー、二次創作のオリジナルリメイクなら、元があるからちゃちゃっと書けて、手軽に作品点数増やせるじゃん!と思って書き始めたんですけど、全然まったくそんなコトなくて泣いてます。
名前が違うだけであの二人だから、と思うと、魅力的に描かなくてはという使命感が湧いてしまい、なんとここまで全部加筆部分です。次のパートでようやく元の文に繋がるんですが、それもまぁ直しまくりでほぼ原形留めない勢いです。困っちゃいましたね。
そんな感じでかなり力が入っているので、お楽しみいただけたらとても嬉しいなと思います。
ちな、岡村は以蔵さんのイメージで書いてます。坂本イメージの子も出せたら出したいですね。

ハイエナ??という方はこちらを参照してください。
ハイエナ設定解説

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