2022
27
May

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」4


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第三話の続きになります。

第三話までのあらすじは以下のような感じです。

フューリの友人シシィはオルナダの呼び出しで夜の会議室へ向かった。見るからにお偉方が集まっている部屋で一体どんな会議が行われるのかと気をもんでいたシシィだったが、オルナダの提示した議題は、フューリが自主的に戦闘訓練に望むようにしろという実にしょうもないものだった。冒険に連れ出すことならできるかもとシシィが提案すると、ユミエールが温めていたダンジョン建設プロジェクトを進めてはどうかとプレゼンを始め、説得されたオルナダは一分とかからずに近隣にダンジョンを一つ作ってしまった。

【登場人物一覧】
フューリ:元狩人でオルナダの飼い犬。人狼とヒューマーのハーフ。
オルナダ:イラヴァールの国王的魔族。
シシィ:フューリの友人のヒューマー。
ユミエール:オルナダの右腕的エルフ。
ブゥプ:ユミエールの部下の人兎。

以下四話です。


【フューリ 三】

ダンジョン調査先発隊出発日の早朝、まだ日も昇らない時間に、僕はシシィと一緒にイラヴァール南の備品庫を訪ねた。
備品庫はとても大きな建物で、僕がオルナダ様にもらった小屋が百個は入りそうな大きさだった。外壁は一つ一つに呪文型の術式が施されたレンガが積み上げられ、それを魔法陣状の金属で補強している。窓は小さく、すべてに鉄格子がはまっていて、ひと目で堅牢とわかる作りをしていた。
入り口でステータスボードをチェックされ中に入ると、正面は鉄格子のついたカウンターになっていて、それが両端の壁まで伸びていた。中は真昼かと思うほどに明るく、照明に大きい光石を使っているのがわかった。カウンターの向こうにも鉄格子がついていて、その奥に見本の装備を着た人形や、僕の身長くらいの棚があり、さらに奥には、武器や防具を種類別に入れた檻が、三階に分けてみっちりと並んでいるのが見える。
僕らは緑服のドワーフの案内でカウンターの中へと通され、ざっとどこになにがあるかの説明を受けて、鉄格子の向こうへ入れてもらった。
「選んだ装備は一度こっちで預かりますも。各装備の詳しい説明については、ステータスボードの鑑定をご利用くださいだも」
ドワーフはドワーフ訛りでそう告げると、一礼をして鉄格子前のテーブルに腰を下ろした。
「いやー、こんなにあると目移りしちゃうよなー」
「うーん、今更だけど僕たち、なんで選ばれたんだろうね? もっと訓練積んでる人たちがいっぱいいるはずなのに……」
「そ、そりゃあ、アレだ、ほら……。ダンジョンって低層階は魔物もそんな強くないし、低レベルのパーティーから送って、徐々に高レベルを送ってくつもりなんじゃないか? 攻略難易度を測るためにもさ」
なるほど、そうなのかもしれない。さすが冒険者を目指しているだけあるなと僕は感心した。
「まー、選ばれたんだから、喜べよ。都市を挙げてのプロジェクトだし、めっちゃオル様の役に立てるぞ」
「そうだね。シシィが言った通り、やってくれたら助かることが御布令で出るんだもんね」
「そそそ。これからも公募出たら積極的に申し込んでこうぜ。飼い犬技能上げるのもいいけど、求めに応えるほうが確実に役に立てるしな。あとほら、今回はパーティ組んでくし、念願の私以外の友達ができるかもだぞ」
「そっか! そうだよね、僕頑張るよ!」
相変わらずやりたいことも、どうやって幸運を還元するかも考え中だった僕にとって、今回の調査はほんの少しでもオルナダ様の飼い犬らしいことができる絶好の機会だった。故郷にいた頃は諦めていた友達作りに再挑戦する機会にもできる。僕は俄然やる気が湧いてきた。
ぐっと胸を張ると、シシィは「そーそー、その意気」と親指を立ててみせた。きっと初めてのダンジョンで緊張しているのだろう、ストレスを感じているときの匂いをさせているのに、僕を励ましてくれたのだ。本当に良い子だ。なにがあってもシシィのことだけは絶対に守らなくては。僕は決意を新たにした。
「そういやその後、ステータスとか技能とかどうよ? もうある程度、表示されたんじゃないか?」
「それが一個、気になる技能があって……。ちょっと見てみてよ」
シシィが倉庫内マップを眺めながら聞いてくれたので、僕はちょうどよかったとステータスボードを呼び出し、気になっている箇所を表示させた。

【恒常技能】
捕食者の気配 LV279
被捕食者の残滓が蓄積し、捕食者の気配となる。か弱きものは慄くだろう。

「どういうことだと思う?」
「んー、読んだまんまなんじゃないか? お前狩人だし、狩った獲物の残りカスみたいのが溜まって気配になって、弱い生き物がビビるみたいな感じじゃん?」
なるほどと思うのと同時に、悲しい気持ちになった。
僕はあまり動物に好かれない。というか大抵の生き物は、目が合うと硬直するか、逃げ出してしまう。昔、怪我をした小兎を拾って世話をしたことがあるけど、ずっと僕を怖がって、ついに懐いてはくれなかった。
「……僕が動物に怖がられるのって、コレのせい?」
「そんな感じするな。それより早く装備選ばないと、集合に遅れるぞ」
シシィはこの技能に興味をそそられないのか、僕の腰の辺りをポンと叩いて先を歩く。
「って言われても、なにを選んだら良いのか……」
「そりゃまずはスライムスーツだろ」
後ろを歩く僕が呟くと、シシィは振り返り、すぐ横の棚を指した。あまり貴重な装備ではないのか、武器のように檻には入れられていない。
シシィによると、スライムスーツは装備品の下に着ける下着で、汗や汚れを即座に消化し、身体を清潔に保ってくれるそうだ。やりたくはないが、着たまま排泄も可能らしい。スーツの上下と、ソックス、グローブは冒険の必須アイテムと呼ばれていると、シシィは得意げに語って自分のサイズに合うスーツとソックスを取って、先程のドワーフに渡した。僕もそれに倣う。
良さそうなスライム製品は一通り買い揃えたけど、説明を聞くとスーツも便利そうなので、調査から戻ったら買っておこうと思った。
「次は武器と防具だな。フューリ、こういうフルプレートに大剣とかどうよ?」
シシィが装備見本の人形をペチペチと叩く。
オーガサイズの人形は黒光りする鎧を纏い、背中に大剣を背負って、どっしりと佇んでいた。昔、シシィに貸してもらった冒険小説の主人公っぽくてカッコイイ。着てみたくはあるけど、どう考えても動きにくそうなので、僕は首を横に振った。
「シシィが着たらどうかな? これだけガッチリしてたらちょっと安心だし」
「いやこういうのは前衛向けの装備だからな。今回のパーティはオーガもいるらしいし、私はどう考えても後衛だろ。普通に軽さ重視の装備にするよ。武器は軌道とか威力を調整しやすい弓かな。物理式銃は煩い上に嵩張るし。お前はどうすんだ?」
「うーん……。どうしよう……」
弓兵向け装備の檻に移動するシシィの後を追いつつ、僕はずらりと並ぶ武器や防具にざっと目を通していく。
調査隊の仕事はダンジョンに生息している魔物を倒して、素材を持ち帰ることだと聞いている。その点は、狩りと同じだ。違うのは、なにが出るのかもわからないダンジョンに、パーティで挑むという点だ。いつもなら狙う獲物に合わせて装備を選ぶけど、今回はそういうわけにはいかない。獲物をたくさん狩ることよりも、生きて帰ることを優先するべきだ。
僕はプロテクターをいくつか手に取る。「コマンド、鑑定」と唱えて、性能についての説明を聞き、圧縮黒樫製のものを選ぶ。木製だけど金属のものより匂いが少なく、強度が高い。内側に模様状の術式が掘られていて、火や温度変化を防ぐ作りになっているらしい。少し重いけど、動きに支障は出ない範囲だ。あとは防寒用に、鱗熊の毛皮で作ったマントでも羽織れば充分だろう。
腕、胸、脛のプロテクターを選び、ドワーフのところへ預けに行く。シシィも似たような防具と鳥の頭の形をした面、武器に小さめの弓と片手剣を選んでいた。どれもビッシリと呪文型の術式が描かれていた。
「フューリは武器はいいのか? ある程度なんでも使えるだろ?」
「自分の山刀と解体用ナイフだけでいいかなって。手が塞がるの、あんまり好きじゃないし」
使い勝手の良さそうな武器があったら持って行きたかったけど、そもそもここにあるのは戦闘用の武器なので、狩りに向くものはあまりなかった。それに大抵のことは武器なんかなくてもなんとかなる。打撃は拳で十分なので棍棒類は無用。遠距離攻撃もその辺の石を投げつければいいので、弓や銃もいらない。剣は刃の形状も幅も長さもちょうど良いものがないし、斧は木こりの道具だ。大型の獲物を狩るなら槍はアリだけど、今日行くダンジョンは洞窟らしいので、そこまで大きい魔物はいないだろう。
「そか。まー、お前なら素手でも余裕だよな」
シシィはケラケラと笑いながら僕を振り返り、僕の頭の上を見て、ぎょっと目を見開いた。僕の背後にいる人物に驚いたんだろう。いや、すくみ上がったと言ったほうが正確かもしれない。シシィの顔には若干、恐怖の色が浮かんでいた。
「ふん。ヒューマーにヒューマー混じりが、そんな装備で役に立つのか?」
聞き覚えのある、しゃがれた低い声が頭上から降ってきた。
振り向くと「お前ら気に食わない」と言わんばかりの顔をしたオーガが、紫がかった赤目で、じろりと僕らを睨みつけていた。束ねた銀髪、額の二本の角、精悍な顔つきと、青服のズボンに胸帯だけという服装によって嫌でも目に入る筋肉質な身体つきが如何にもオーガらしい。元々肌が赤い種族なので、眉を吊り上げるだけで激怒しているように見えるけど、僕は経験からこの人がただ難癖をつけたいだけであることがわかっていた。
「ガーティレイさんもメンバーなんですね。期間中はよろしくお願いします」
「ガーティレイ〝様〟だろう。何度でも言うが、オルナダの犬になったからといって、私がそんな生意気を許すと思うでないぞ!」
「何度も言ってますけど、僕はオルナダ様以外は様付けで呼ばないことにしたので、我慢してください、ガーティレイ〝さん〟」
僕はガーティレイの要求を、きっぱりと撥ねつけた。
このガーティレイというオーガは、オルナダ様に執着しているところがあり、いつもなにかにつけ絡みに来る。以前はオルナダ様に対するあまりの馴れ馴れしさに、イラヴァールの偉い人か、貴族かなにかなのかと思っていたのだけど、オルナダ様によると、僕と同じ青服の一般市民らしい。
この事実を知った僕は、この人に対し最大限の礼を尽くして接していたことを激しく後悔して、以来、オルナダ様以外への様付けをやめたのだった。
「はっ。まぁ良い。どうせ貴様もそのヒューマーも、すぐに脱落するに決まっているからな。そもそもどうやって選ばれた? どうせオルナダのヤツに頼んで不正に参加しているのだろう。違うか?」
ガーティレイは手にしていた身の丈ほどもある大斧を担ぎ上げ、ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべた。こんな話、付き合うのもバカバカしいけど、オルナダ様の名前を出されては否定しないわけにはいかない。
「不正に参加したのは、貴様も同じではないのか? オーガよ」
僕がガーティレイから目を逸らさないまま、口を開きかけたとき、右側から透き通るような声が聞こえた。棚の間からカツカツと乾いた足音をさせ、白いフルプレートアーマーを着たダークエルフが現れた。腰には細い剣を下げて、絵本に出てくる騎士のようだった。肌は褐色、目は金。髪の毛は短い癖毛で、白に近い金髪だけど、端麗な顔を見ると、色は違ってもやっぱりエルフだなという印象を受ける。
ガーティレイが「なにか言ったか?」と向き直り、ダークエルフにずいと顔を近付けた。僕の目の高さよりも身長の低い相手にそんなことをするものだから、ほとんど覆いかぶさるような格好になっている。しかしダークエルフは少しも表情を変えない。
「では聞くが、総合実戦訓練での成績はどのくらいだ? 上位にいれば名前くらいは聞くはずだが?」
「ふん。骨の二、三本折ったくらいで失格になる訓練での成績になんの意味がある?」
「ルールひとつ守れんとはな。命令無視は兵として最低の悪行と知れ」
「行儀の良いのは面だけではないようだな。戦場より風呂で働くほうが、向いているのではないか?」
「下劣なオーガめ! 騎士である我を侮辱するか!」
二人は互いに睨み合い、火花を散らす。こんなに罵り合って、この人たちはPPを気にしていないのだろうか。
ここにいるということは、この二人も調査隊のメンバーということになるが、今からこんなことでパーティとしてやっていけるのかと僕は不安になった。シシィも同じことを思っているのか、頭の痛そうな顔をして僕を見上げていた。
「くっ、この、エルフ風情が粋がりよって……。ならばダンジョンで決着をつけようではないか」
「いいだろう。身の程というものを教えてやる」
シシィと顔を見合わせていると、二人は怒りのオーラをぶつけ合い、我先にと備品庫から出ていった。
「なんか、あいつらが前衛って感じになりそうだな……」
「連携取れる気がしないね……」
「あの二人が魔物全部倒しちゃって、私らやることないみたいのは避けたいよなぁ……」
「お互いに足を引っ張って、やられちゃうほうが心配かも……。それに後衛を庇ったりしてくれなそうだから、僕、盾もらって来るね」
ダンジョン内であの二人を頼るのは危険な気がした僕は、ステータスボードにおすすめを聞いて、身長より少し大きいサイズの分厚い銀色のタワーシールドを装備に加えた。さすがに重たいので機動力は大幅に下がるだろうけど、盾役になるなら多少動きが鈍くても大丈夫だろう。
「私も防具、もう一段くらい守備力高いのに替えてくるわ」
天井を仰いだシシィが、防具を取りに棚の間に消えた。
僕はシシィを待つ間、なにか面白いスライム装備でもないかと、スライム用品の並ぶ棚を端から眺めた。すると下段に、ふわふわとした茶色い毛皮の帽子があるのが目に止まった。
誰かが元の場所に戻すのを、面倒くさがったのだろうか? そう思って手に取ると、帽子はビクリと震え、ジタバタと暴れた。
「た、たべないでくだしゃーーーい!!」
帽子はそう絶叫すると、くたりとして動かなくなった。気絶したらしい。
短い手足に、ずんぐりとしたお尻、そして特徴的な長い耳。どうみても人兎だった。僕らと同じ青い制服を身に着けているところを見ると、この子も調査隊のメンバーなんだろう。
どっと冷や汗が吹き出した。初対面でお尻をガッツリ掴むなんて、信頼関係にヒビどころの話じゃない。しかも何故か気絶までさせてしまった。どう考えても非常にマズイ事態だ。
「どうした? なんかカワイイ悲鳴が聞こえたけど」
「あわっ、あわわわわわっ、あわっっっ」
すっかり狼狽えた僕は上手く言葉を出せず、戻ってきたシシィに、人兎を掴んだままの両手を差し出した。
「わ、わかった……。とりあえず、逆さ吊りにするの止めて、ゆっくり床に降ろそう……」
言われて初めて、僕は人兎が逆さまになっていることに気がついた。


第五話公開しました。

うさぎって持つとすごい暴れるよね。

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