2020
24
Mar

百合小説

沖ノブ(fgo)百合小説 公園に桜が咲いてた学パロ沖ノブ

「ほれ、しっかりせい沖田」
「しゅ、しゅびばしぇん……」

朝寝坊して、朝食を抜いて、ノッブを迎えに行って、一緒に学校までダッシュ!
したところまでは良かったけれど、走るうちに私は目眩を起こし、ヘナヘナになってしまった。たぶん、低血糖というヤツ。腹ペコで全力疾走なんかしたせいだろう。

「す、すこし、やすんだら、はしれますから……」

ノッブに肩を借りて、近くの公園へやってきた私は、体力の無さを情けなく思いながら、ベンチへもたれた。

「どうせ遅刻じゃし、のんびり行けばよかろ。なんならこのままサボって遊びに行っても良いしのう」

私の隣、わはは、とノッブが快活に笑う。
入学したてで、それはダメでしょう。そう思ったけれど、脱力感のために言葉は出ない。
口を開きかけたときには、ノッブはぴょんとベンチを立って、「そこで待っとれ」と、どこかへ行ってしまった。
ひとりになった私は、肺から空気を吐く。少しでも楽になることを願ったが、目眩も動悸もまだ治まらない。
真新しい制服のセーターを脱いでみる。気温は生温いけれど、まだ冷たい風が、上がった体温を緩やかに冷ましてくれた。
ほっとして目を閉じると、鼻唄がゆっくりと近づいて、目の前で止まった。
開いた目の先には、ココアの缶。
お礼を言って受け取ると、ノッブは隣に腰を下ろして、自分の缶を開けた。
ノッブもココアかなと思ったけれど、手にしている缶は、私にくれたココアより細長い。
黒々としたそのボディに、違和感を覚える。

「……コーヒーなんて、飲みましたっけ?」
「ふふん、わしってば、沖田と違ってオトナじゃからの。これから朝はコイツで行く」

得意げに振って見せる缶には、ブラック無糖の文字。
大の甘党のクセに、そんなの飲めるんです?
訝しく見つめていると、コーヒーを一口含んだノッブの顔が、ぎゅっと歪んだ。

「ぶぉえっ、苦過ぎじゃろ貴様!!! それで人の飲み物のつもりか!!!」

必死にコーヒーを飲み込んだノッブが、胸ぐらを掴む勢いで、手持ちの缶に因縁をつけた。
よっぽど苦かったらしい。ノッブの声は裏返っていて、目にはちょっぴり涙が滲んでいた。

「ぷははッ、オトナじゃから〜とか、格好つけてそんなの飲むからですよ」
「ここまでえげつない苦さとは思わんじゃろうが!」
「当分、コンポタでも飲んでたら良いですよ。お子様なんですから。ぷぷぷっ」

私がからかうと、ノッブは、むぅ、と唇を尖らせる。「売り切れじゃったんじゃもん」と、不貞腐れたように言って、私の膝を枕に寝そべった。
ココアを半分個にしようかと提案したけれど、「しばらく茶色いのは飲みとうない」と目を閉じたので、私は遠慮せずにココアに口をつけた。
次第に体調が回復し、暖かい春の陽射しが、心地よく感じられた。
遅刻が確定していることも相まって、私はのんびりとした気分になっていく。ベンチがあるだけの小さな公園は静かで、見回しても、犬の散歩をする人すらいない。
こんな陽気の中、お昼寝なんて、さぞかし気持ちが良いでしょう。
羨ましく思いつつ、膝の上のノッブに視線を落とすと、ぱっちりと目が合った。
ノッブが目を逸らさないので、自然と、見つめ合う形になる。

「…………えっと、ね、寝癖とかついてます?」

ムズムズとしてきた私が聞くと、ノッブは、目をぱちくりとさせて、それから、ふっと微笑んだ。

「いや、なに……。存外、絵になるものじゃと思うての」ノッブが、私の向こうを指差す。
「あぁ、桜ですか」私は頭上を確認して、「花とか、絵とか、興味ありましたっけ?」また下を向いた。

さっきコーヒーを飲んだときよりも苦い顔をしたノッブが、「わしじゃって、花を愛でる心ぐらいあるわ!」と、眉毛を寄せるので、私は「え? ノッブも花より団子タイプですよね?」と、首をかしげる。

「ほんに、沖田は、色気ってモンがないのう」

大きくため息をつかれた。
私がぷうと膨れると、ノッブは、「ココア飲み終わったら起こせ」と、再び目を閉じる。
私は、「はいはい」と、適当な返事をして、むくれたまま、頭の上の桜を見上げた。
薄いピンクの入った白い花が、もりもりと咲いて、時折吹く風に揺れ、小さな花びらを落としている。
確かに綺麗ですけど、色気なんて、あっても役に立つものでもないでしょうに。
舞い落ちた花びらを一つ、捕まえて、眺めてみる。なんということもない。けれど、なぜか、そのまま地面に落としてしまうのも、気が引けた。
私は少し考えて、寝ているノッブのおでこに、そっと、花びらを乗せてみる。
ノッブは全く気付かないらしく、ぴくりともしない。私はなんだか、いたずらが成功したような気持ちになる。
ココアは、なるべく、ゆっくり飲みましょう。
桜の散る中、私はうにゃうにゃと口が緩むのを感じながら、眠るノッブをただ眺めた。


桜ネタ書いてと言われて書いたヤツ。
自分の中の沖ノブのイメージが夏なので、このくらいのものしか書けませんでしたが、このくらいの短さってのもライトで良いかなと思います。
中学生か高校生なのか、付き合ってるか付き合ってないかは、決めてないのでお好みでお召し上がりください。
付き合ってないなら、口説かれてることとか、自分の気持ちとかに、沖田さんは全く気付いていなくて、付き合ってるなら、言葉の愛情表現には気付いてないけど、幸せは噛み締めてるみたいな感じになるかと思います。
どっちにしても沖田さんは鈍いのが、沖ノブクヲリティ!!!

他の沖ノブ、ノブ沖作品はこちらへ。
沖ノブ、ノブ沖作品1話リンクまとめ

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MURCIELAGO -ムルシエラゴ-

 
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