2018
7
Dec

百合小説

沖ノブ(fgo)百合小説『抱卵』寄り添って眠る沖ノブの独白


それはなんの前触れもなく始まった。

これといったきっかけもなく、理由もなく、意味もなかった。ただどういうわけか、なんとなく習慣になっていった。
だけど一度は殺し合いをした間柄の人物と、そんな習慣を持つのはとても奇妙なことではないだろうか。
今更ながらそんな疑問を持った私は、私の腕の中で背を向けて眠るその人の後頭部をぼんやりと眺めた。すでに寝入っているらしく、すうすう規則正しい寝息が耳をくすぐる。

なんて無防備な姿だろう。

私には、今この瞬間に私たちの関係が敵対的なものに変わったら、躊躇いなくこの薄い身体を後ろから貫く覚悟があるというのに。それはきっとこの人だとて同じだろうに。
もしそうなっても、私の攻撃など容易く躱せるという余裕があるのだろうか?それとも私の刃より速く、私の身体に風穴を開ける気でいるのだろうか?どちらであっても侮られていることには変わりない。

いや、むしろそれは私の方だろうか?
もし今この人が、あの火縄の群を私に放ったら、私はそれを躱すことができるだろうか?初撃を躱したとして、予め退路へ向けられた銃口の先へ飛び出してしまったら?心中を覚悟で私を取り押さえ、自分ごと打ち貫いてきたとしたら?まぁ、この人がそんな戦い方をするとも思わないですが、そのとき私はどう動くべきでしょう?

ああ、そのときはいっそ、本当に心中してしまえば良いのか。

そんな考えに至った瞬間、急に瞼が重たくなった。
生暖かいあくびをひとつついて、目の前の絹のような黒髪に鼻先を潜り込ませる。髪の匂いが甘く香り、つるつるひんやりとした肌触りが、心地よい眠気に変わって沁み込んでいく。腕に抱いた熱が、じわりじわり、それに追い打ちをかけるので、ふう、と長く息を吐いて、私は目を閉じた。

ふと、子供の時分に、姉の布団に潜り込んでいたときのことが、頭を過ぎる。それがおかしくて鼻から小さく笑いがこぼれてしまった。
この人は生前は私の倍も生きたのだから、姉というには年が上過ぎるし、普段の振る舞いは年端もいかぬ子供といった様子で、こうして目の前で眠っている姿などは、呑気に日向に転がる猫のようだ。身体だって私の方が大きくて、この人の細い肩も、小さな背中も、すっぽりと腕の中に納まってしまう。幼い頃に面倒を見てくれていた姉たちを連想するには、あまりにも遠い。
そもそも、魔王を自負する危険な人物を抱いて、とろとろとまどろんでいるだけでも尋常ではないというのに、この上、姉を思い出すだなんて、酔狂にもほどがある。おかしくて、おかしくて、全然似てませんよと、笑うよりほかにどうしようもなかった。

ふつふつと含み笑いをしていると、腕の中の魔王が、もぞり寝返りをうってこちらを向いた。胸元に潜り込もうとするように、ずりっと一度だけ額をこすり付け、またくぅくぅと寝息を立てはじめる。
こんな風に眠られると、自分が卵を抱く鳥のように、この人を温めているみたいに感じる。とすればいずれなにかが孵るでしょうか?いや、やっぱりこの人の場合は、勝手に暖を取りに潜り込んできた猫という方が近い。いずれにせよ、帝都で対峙したときとは別人のよう。

ああ、そうだ、そういえば、あのとき殺し合った相手と、こんな風に寄り添って眠っているのが奇妙だなと考えていたのだったっけ。
まあ、奇妙だとしても、いよいよとなったら差し違えればよいと結論が出たのですし、もうそんなことはどうでもいいかもしれません。敵を一人しか減らせないのは心苦しいけれど、魔王を道連れにできれば、それなりの働きができたと言ってよいはずです。そのときは必ず、なにをおいても私が、この人の胸を一突きに貫いてしまおう。それができればきっと思い残すことはないはずだから。

おぼろげにそんなことを考えるうちに、ふわりと胸になにかが広がったような気がしたけれど、それがなにかもわからないうちに、心地よい温かさの中にすぅと意識が沈んでいく。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

それはなんの前触れもなく始まった。

きっかけは深酒と気まぐれだった。酔った勢いで、生前の後悔を洗いざらいぶちまけ、わんわんと泣き出した相棒を、ひどく愛しく思った。柄ではないと思いながら、なぐさめにと抱いて寝た。
翌朝には前夜の醜態をけろりと忘れた相棒は、同じ布団で寝られては狭いと悪態をついたが、寝心地が良かったのか追い払うことをせず、また、わし自身もなぜかよく眠れたので、そのまま二人でこんこんと眠り続け、以降、共に眠るのが習慣となった。

一度は殺し合った仲だからこそなのか、此奴の考えることは手に取るようにわかる。
わしを慕っていること、自身ではそれに気づいていないこと、また敵対関係になっなたら、躊躇うことなく殺しにくる気でいること。だからこそ、こうして互いに無防備な姿を晒して、眠りこけていられるのだ。
そしてそれをわかっていながら、此奴に背を預けて寄り添い眠るのは、それも悪くないと思っているからに他ならない。

寝込みを襲われてもいいのか、とでも言いたげな視線を無視して、今日も背を向け、此奴の腕に腰を抱かせて眠る。
自分より低めのぬるい体温を感じながら、落ちるまどろみのなんと心地よいことか。

誘いに逆らわず、引きずり込まれるようにして早々に寝入り、そのまま夜明けを迎える。はずだったが、今日は夜中に空咳の音で目を覚ました。
だがそれも、病弱な此奴との同衾ではよくあること。ケホンケホンと空気を吐き出す背中に手を回し、起こしてしまわぬようゆっくりと、背骨の上を上下にさする。その胸に耳を当て、ひゅうひゅう苦しげな呼吸音が静まるまでさすり続けて、甘ったるい肌の香りに包まれ、心音を子守唄代わりに再び眠る。慣れたものだ。

我ながら、似合わぬことをしていると思う。生前、正室も側室もそれなりに大事に扱いはしていたが、こうして背をさすってやるようなことはついぞなかった。
胸元に埋めた頭を反らせ見上げれば、半開きの口からよだれを垂らしながら眠るあどない寝顔が見える。やや呆れつつ、開いた口を閉じさせ、よだれを拭ってやると、くすぐったそうに首をよじって、布団を引き寄せるような塩梅で、わしの身体を抱き竦めてくる。

ぎゅっと喉の奥を絞られるようだ。

唇を奪い、組み敷いて、夜が明けるまで蜜を吐かせてやりたいが、湧き上がる度、衝動を飲み込んで、ただ寄り添うのみにとどめている。此奴が一家臣であれば一も二もなく伽を命じたのだろうが、ここでは互いに兵の一人に過ぎぬゆえ、それは叶わぬ。
容易くそれが叶わぬというのは、斯くも身の内を焼くものなのか。薄く血の色が混じる細い白髪を鋤くことすらできず、鎮められることのない火照りが、しんしんと募っていく。だがそこが良い。
手に入らぬもどかしさが、触れられぬ切なさが、こんなにも愛おしく感じられるものだとは、それなりに長かった先の生では知ることがなかった。それが今頃になって、こんな童のような一人斬り相手にとは。もはや笑うよりほかに仕様もないが、これが今のわしにはひどく大切な心緒となっている。

ぬるい胸に頬を寄せ、口元を緩ませていると、寝相の悪い人斬りが寝返りを打ち、わしの身体を抱いていた左腕で布団を払い除けてしまった。仰向けで大の字に転がり、しばらくそのまま寝息を立てて、もそもそと寒そうに、またわしの身体を抱く。人の気も知らず、ぐうすか寝こけている背中に腕を回し、布団をかけ直して、冷えた身体と胸の内を再び温める。
夜毎こんなことを続けていると知れば、弱みを見せることを嫌う此奴は、きっと怒るに違いない。むしろ弱みを晒しているのは、わしの方であることも気付かず、顔を真っ赤にして。
その顔はたいそう愉快だろう。だが告げるつもりはない。知られずとも構わない。

ここからなにものも孵らぬとしても、こうしてただ温めている、至極穏やかな時が、存分に、恋というものを味あわせてくれるのだから。


セリフがないssを書いてみたくて書いたのですが、独白ってセリフみたいなものだよなぁと気づく(遅い)。そのうち本当に地の文だけのも書きたいですが、文才がなぁ。
まぁ、でもこういうのもなんか百合百合しくていいですよね!たぶん!

付き合う前の沖田さんとノッブは、お互い想い合ってるんだけど、沖田さんの方が自分の気持ちに全く気付かなくて前に進まないってデフォですよね。んで、ノッブの方は色々思うところがあると。
沖田さんの独白は「なんかよくわからないけど、気持ち良いから良いか」くらいの内容なので、すごくサラサラっと書けるんですけど、我が殿、ノッブの方はすごく気を使うというか、「かのようなとき、我が殿はどのようにお考え召されるのであろうか?」って悩んでしまうので、筆が進まず、こんな短さでも苦労がありました。出来の良し悪しもわからぬ。というか自己満足感がヤバイ。ぶつ切り感あるからせめてもうちょっとゆったりさせたいなー。でもタイトルだけは200点。

まー、セリフがないし、ストーリーもないので、お楽しみいただける方は少ないのかなと勝手に考えております。なので、支部には上げず、ひっそり公開。
次は途中になってるRのヤツをやっつけて、構想中の現パロを書きたいですね。その前にマンガかな?

余談ですが、こうやってノッブが温めてあげるようになってから、沖田さんは体調の良い日が増えるんですけど、やっぱり気付かないって良いなと思うんですよ。

他の沖ノブ、ノブ沖作品はこちらへ。
沖ノブ、ノブ沖作品1話リンクまとめ

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MURCIELAGO -ムルシエラゴ-

 
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