2018
15
Aug

百合小説

沖ノブ(fgo)百合小説『愛の言葉』夏の夜のビーチで事後


目には星の海。耳には波の音。
水着から出た肌を撫ぜる潮風が、少しずつ冷たくなって、昼間の賑やかなビーチが嘘のように感じられた。

「星がキレイですねー」

「んー…?そこは月じゃろー…?」

何の気無しに言うと、すぐ隣から気だるげな声が帰って来た。
言われて私は、砂浜に寝転んだまま月を探したが、建物の影になっているのか、その姿を見つけることはできず、はて?と首をひねる。
数秒考えたが、隣で仰向けで寝ているその人のまぶたは閉じられており、私は、またこの人は特に意味もなく適当なことを言ったのだなと思った。
考えるのを止め、話を続けることにする。

「昼間の海もキレイでしたし、さっきは夕日もキレイでしたよ。ノッブも寝てないで見たらよかったのに、残念ですねー」

私はちょっと嫌味っぽく言った。
この海に沈む夕日は本当にキレイで、二人で肩を寄せ合って、うっとりした気持ちでそれを眺めたかったのに、この人はぐーすか寝こけて、何度起こしても相手にもしてくれなかったのだ。

それを思い出し私は、空と海を眺めるうちに落ち着いた、拗ねた気分がぶり返すのを感じていた。
聞こえよがしにため息をつくと、ノッブは不機嫌そうな声で、沖田、と私を呼んだ。

「貴様、わしが好きでぶっ倒れておると思うのか?せっかく海に来とるのに、こうなったのは誰のせいだと思うとるんじゃ?」

「…………なんのことでしょう?」

私は精一杯とぼけてみせたが、明白過ぎる事実があったので、それは無駄な抵抗だったと思う。

昼間私たちは、一緒にバカンスに来ていた他のサーヴァントたちと一緒に、このビーチで遊んでいた。始めのうちは普通に泳いだり、水を掛け合ったりしていたのだが、そのうち生き物に興味を持ち出したノッブが、黄色いうなぎを捕まえると言って、どんどん人気のない方へ歩いて行ってしまった。

あとをついて来た私は、周囲に人影が見当たらなくなったことに気付くと、つい、ムラムラっとして、ノッブを物陰に引っ張り込んでしまったのだ。
だって、水着なんてほとんど裸みたいなものだし、陽の光に照らされたノッブの白い肌はすごく眩しくて、これで欲情するなというのは土台無理な話というものだろう。

始めのうちノッブは、よさんか、と言って抵抗していたが、強引に唇を塞いで、舌を吸っているうちに、だんだんと大人しくなっていった。そのことに私はより一層興奮して、歯止めが効かなくなり、ついつい何度も…。

そうして私の気が済んだ頃には、ノッブはすっかり力が抜けてしまっていた。
私はくたりとしたノッブの身体を砂浜に横たえ、自分も隣に寝転がって、今に至っている。

言い訳の余地はなかった。
余地はなかったが、言い負かされるのはしゃくだったので、私は苦し紛れに、こんな人気のないところに連れてきたのが悪い、とノッブの落ち度を指摘する。

「…大体、全然抵抗しなかったじゃないですか…、沖田さんのせいじゃありません」

「一回ぐらいなら良いかと思ったんじゃ。いくらなんでもこんなトコで、あそこまでがっつりヤられるとは思わんじゃろーが」

「がっつり感じてた人に言われたくありません」

「…わし、今晩は茶々のトコに泊まってやろうかの……」

「ちょ、そんなのダメです!あの大きな寝床を見たでしょう?ふかふかでしたし!あそこでしないなんてありえないですよ!」

「黙れ、この色情狂め」

「…この場で犯してやりましょうか?」

「……沖田、貴様がわしを抱けるのは、わしが抱かれてやっておるときだけだということ、まだわかっておらんようじゃの…」

視線がぶつかったところがバチバチと火花を散らす。
身体を起こした私たちは、互いに今にも掴みかからんばかりの勢いで睨み合った。

私がもう一言、嫌味のひとつも言ってやろうと口を開きかけたそのとき、私たちのお腹が同時に、ぎゅう、と鳴いた。

「……夕餉が先じゃな」

「……ですね」

ノッブは砂の上に置いていた帽子を拾い上げ、砂を払いながら先に立って歩きだす。
私はその後ろ姿を、数秒眺めてからあとに続いた。

早足で追いついて隣に並ぶと、ノッブは帽子を頭に乗せてから、私の手をそっと握る。
ノッブが手を繋いでくるなんて珍しいので、私はちょっと驚いた。

「どうしたんですか?」

「ちと肌寒いからの」

私の問いにノッブは短く答え、私は確かに水着だけではちょっと寒い気もするが、手を繋いだところでそれが緩和するのだろうか?と不思議に思った。

でもそれも一瞬のこと。
ノッブの柔らかな手の感触が嬉しくて、すぐにどうでもよくなり、私は頬を撫ぜて行く潮風の香りが、胸のきゅんとさせるのを楽しみながら、ノッブと二人、真っ暗な浜辺を宿に向かい歩いた。

しばらく黙って歩いていると、ふいにノッブが、星に、夕日なぁ…、と呟いて、くくっと噛み殺すように笑った。
ノッブは、何がおかしいのかと顔を覗き込んだ私の目を真っ直ぐに見つめ、ふっと口元に笑みを浮かべる。

「沖田よ、わしは死んでも良いぞ、もう死んどるがの」

一体何の話だろうか。
私はきょとんとしてしまった。

ノッブはそんな私を愉快そうに見ると、よいよい、愛いヤツじゃの、と言って、私の手を離し、代わりに肩をポンポンと叩きながら笑った。
それから、タタッと駆け出したかと思うと、宿まで競争じゃ、と言って走り出す。

ちょっと!ズルいですよ!そう言いながら私は、その後を追いかけた。

宿に付く前に追いついたなら、この真っ黒な砂浜に押し倒して、また唇を奪ってやろう。
愛しさが私の背中を強く押した。


アイラブユーの意味でよく使われる「月がキレイですね」系の言葉が他にもあると知って書いた短編。定番ですが百合百合しくて良くないですか?

強引に来られてだんだん大人しくなっちゃう第六天魔王もまたふつくしひ。って家臣思う。
最後のダッシュが照れ隠しだったら萌ゆる。

ノッブは沖田さんに伝わらないことを承知で、知的な言葉で愛を語り、いつか意味を知った時にどんな顔するかなって楽しんでそう。地雷を埋める感じで。そして沖田さんの愛情表現は、ノッブと逆で肉体的っていうね。デュフフww

どうでもいいけど、黄色いうなぎはたぶんヘラヤガラって魚です。ハワイについてググってて見つけただけだからよく知らない。

ちなみに
「海がキレイですね」→貴方に溺れています。
「星がキレイですね」→貴方は私の思いを知らないでしょうね。
「夕日がキレイですね」→貴方の気持ちが知りたいです。
「肌寒いですね」→手を繋いでください。
「死んでもいい」→愛しています。
だそうですので、こちらを踏まえて二回読んでいただけたらいいなぁ、と思っております。
推敲終わったら桜のリングみたいに画像化したい。

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MURCIELAGO -ムルシエラゴ-

 
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