2022
19
Jul

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」13


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第十二話の続きになります。

第十二話までのあらすじは以下のような感じです。

ダンジョンから帰還したシシィはティクトレアとヒーゼリオフに拉致されて、フューリに好かれる方法を聞かれる。最初は適当なことを言って帰ろうとしたシシィだが、この状況を利用して利益を得ようと試みる。

【登場人物一覧】
フューリ:元狩人でオルナダの飼い犬。人狼とヒューマーのハーフ。
オルナダ:イラヴァールの国王的魔族。
シシィ:フューリの友人のヒューマー。
ガーティレイ:調査パーティメンバーのオーガ。
ルゥ:調査パーティメンバーの人兎。
ヴィオレッタ:調査パーティメンバーのダークエルフ。
キャサリーヌ:調査パーティの指導教官。オーガとエルフのハーフ。
ティクトレア:イラヴァール大臣的魔族。
ヒーゼリオフ:ランピャンのダンジョンマスターをしている魔族。
ケイシイ:ティクトレアの飼い犬をしているエルフ。
ユミエール:オルナダの右腕的エルフ。
ブゥプ:ユミエールの部下の人兎。

以下十三話です。


【フューリ 十一】

シシィたちが帰った次の日の朝、僕はオルナダ様を抱えて、中央区の真ん中に立つ鐘塔に来ていた。
広大な広場のど真ん中に建つ鐘塔は、塔の直径の三倍ほどの大きさの建物に周りをぐるりと囲まれる形をしていた。その建物の屋上の一角に、就任式のときのテラスがあった。門を潜り廊下を抜けて、スピーチ原稿を見せられた白い部屋のドアを開ける。中央の長テーブルの手前側に調査班のメンバーが、奥側にユミエール、ブゥプ、キャサリーヌが座っている。どこかにぶつけたのか、キャサリーヌの額にはコブができていた。
「おう、オルナダ。私の隣を開けといてやったぞ」
「このバカオーガ。陛下が貴様の隣になど座るものか」
自分の隣の椅子の背を叩くガーティレイと悪態をつくヴィオレッタを無視して、僕はユミエールの隣にオルナダ様を下ろし、シシィの隣へ座った。
「おい、クソ犬、貴様! どういうつもりだ!」
「ふえ? どうもありませんよ? えへへ……」
僕は適当な返事をして、オルナダ様と過ごした濃密な時間を思い返した。
調査から帰ってから、僕はたくさんの時間をオルナダ様と過ごすことができていた。いつもは最低でも三日は間を置かないと〝食事〟にしてもらえないけど、ここ数日は、ランチに、ディナーに、おやつにと、たくさん呼んでもらえる。昨夜はディナーで今朝は朝食。嵐の次の日は一日中お相手ができたから、僕はすっかりホクホクだった。
ひょっとしてオルナダ様も、僕と会えなくて寂しかったりしたんだろうかと妄想すると、自然と頬が緩んでくる。シシィに「なんか気持ち悪いぞ」と言われたけど、幸せが止まらないのだから仕方がない。
「今回の調査結果を踏まえると、新設ダンジョンは人口の多いミドルクラス向けダンジョンとしてオープンできそうね。低層階はE以上ならなんとかなりそうだし、二十階のランクはDからCってところだったから、運が良ければ最終階の三十階はランクB推奨くらいにはなるかも。その場合の推定収益額は……」
ふわふわとして、ユミエールの話が右から左に抜けていく。途中からやってきたティクトレア、ヒーゼリオフ、ケイシイに対して、一体なにをしにきたんだろう? という気持ちも湧かない。「みんなの働きに応じた成果報酬を振り込んだから、各自確認してね」と言われても、頭が言葉の意味を考えなくて、シシィに「報酬くらい確認しとけ」と脇腹を小突かれるまで、オルナダ様の匂いに意識を集中して、肌の感触や息遣いを反芻していた。
「おい、ユミエール! 私の報酬がゼロになっているぞ! どういうことだ!」
「あぁ。明細を見てもらったら解ると思うけど、あなたPPも罰金も溜まり過ぎてたから天引きになったの。これで十分の一は支払えたから、残りの支払いも頑張って。参加しないといけない研修もたっぷり溜まってたからそれもね」
「ふざけるな! 私の金だぞ!」
「だからあなたの支払いに当てたんじゃない」
ユミエールは喚くガーティレイを相手にせず、いい加減に言動を改めないと市民権剥奪候補に入ると涼しい笑顔で脅しまでかけた。ガーティレイはいつも失礼で横暴で乱暴だから、PPがつかないのかと思っていたけど、ちゃんとついてるようだ。流石に市民権を剥奪されるのは困るのか、ガーティレイはムスッとして押し黙った。ヴィオレッタが愉快そうに含み笑いをしている。
僕も技能でルゥを失神させてしまったりしたから、いくらか引かれているかもしれないなと、ステータスボードを開き、報酬を確認する。合計、五十万マールほどだった。
「はー、結構な額いってんなー」
「え? そう?」
「ぶっちゃけ私の倍以上。やっぱ解体の報酬が高いんだなぁ」
「さすがは殿下。見事な功績であられます」
「初日の調理の指導とか、みんなのお昼を作ってくれたことにも報酬ついてましゅね」
シシィ、ヴィオレッタ、ルゥが横から僕の明細を興味深そうに覗き見る。明細は、仕留めた生物の名前と、素材の価値、そこから算出された成果報酬から始まり、攻撃役、防御役、補助役、指揮役など、パーティでの働きによる報酬が続き、解体や調理の報酬が記載されている。さらにそれぞれの項目に中項目、小項目がついているものだから、ものすごく細かくて、ありえないほど長い。シシィの明細には、仲立ちや、ムードメイクなど、僕の明細にはない項目が並んでいて、評価が画一的でないことも伺えた。
僕の報酬が多めなのはパーティでの任務外の報酬が高いからみたいだ。よく見ると、解体の脇にマスタークラスという注釈とパーセンテージの記載があるから、技術レベルに応じた上乗せもあるんだろう。故郷では獲物を直接持ち込んでも、この十分の一にも満たない額でしか引き取ってもらえなかったから、技術料だけでこんな金額がもらえるなんていうのは、どうにも違和感がある。
「今後、調査が進むごとに改定していくけど、現時点での素材リストをみんなにも渡しておくから、正式オープンしたときに狩りたい魔物の目星でも付けておいて。市民には入場料の割引と、素材買取料の割増をつける予定だから、たくさん挑戦してね」
ユミエールが宣伝めいたことを言うと、ブゥプが僕らに一センチほどの厚さの紙の束を配ってくれた。
シシィとルゥは束を受け取るや、バババッとページを捲って、どれなら自分たちでも取れそうかとか、どの素材がほしいかとかを、楽しげに話しだした。僕も一応ページを捲り、資料に目を通す。
見つかった生物も植物も鉱物も、ほとんど新種であったようで、目次の名前の欄がほとんど未定や仮称になっていた。目次以降のページは、上から順に、名前、特徴、転写画、取得可素材が記載され、図鑑みたいだった。初日に仕留めた牛のページを眺めていると、妙なことに気がついた。
取得可素材の項目が、角、骨、皮となっていて、肉が入っていない。記入漏れかと他の生物のページを見ても、どれにも肉という記述はなかった。
「ちょっと、フュー。なに変な顔してんのよ」
僕らと同じように資料を見ていたヒーゼリオフが声を上げ、その場の視線が僕に集まった。
「いえ、その……。取得の項目に肉が入っていないなと……」
「そりゃあ、肉は素材じゃないし、普通は持ち帰らないからな」
オルナダ様が答え、みんなも頷く。
「え……。そ、それじゃあ肉は……?」
「捨ててく」
「ダンジョンでは汚染防止のために、粉末化を義務付けるケースが多いけど」
「地上だと放置でOKってトコが多いわよ」
「地域によっては埋めないといけないこともあるわね」
「貧乏な冒険者は食べることもあるって聞きしゅけど」
「まぁ基本はポイだよなー……。っておい、どうしたフューリ?」
みんな口々に僕の疑問に答えてくれたが、どれも納得がいく回答ではなかった。
肉は食べ物だ。食べ物を粗末にするなんて許されないことのはずだ。獲物が病気だったりで食べないほうが良さそうな場合は、素材だけもらって埋めることもあるけど、基本的には食べる。食べるが基本で、ポイが基本なんてありえない。
僕はあまりのショックに茫然となってしまった。シシィが目の前にひらひらと手をかざしても、反応できないほどだった。
「え……っと、あの、でも……。みんなで食べましたよね? 肉。初日に……」
「おう。アレはなかなか美味かったな」
「じ、じゃあ、肉も回収して、食事にして提供したりだとか……」
「うーん。それは難しいかなぁ。フューリちゃんの知識と腕があってこその食事だったし……」
「あ、あの、そんなに難しくないので、その……」
なんとか肉を食べてもらえないかと、僕は説得を試みようとした。
「なんだ? そんなに肉が気になるのか?」
「だ、だって、食べ物ですよ? 捨てるなんて……」
「ふーむ……。ユミエール、ピックアップと料理人への教育でなんとかならないか? 調査で食ったレベルの飯ならそこそこ収益を見込めるだろ?」
「ええ? またそんな思いつきの無茶振りを……」
僕がおろおろとしていると、オルナダ様がユミエールに話を振ってくれた。
ピックアップというのは確か、ダンジョンで仕留められた生物を一階まで運ぶ仕事だったと思う。確かにその人達に解体技術を教えたら、下手な冒険者が解体するより肉や素材の質が上がるだろう。それは素材を買い取る運営側に取ってもメリットがあるに違いない。
ユミエールもそう考えたのだろうか、渋い顔をしつつも緑色に光る四角形を指でつついて、なにかを計算した。
「うーん。一応、教育して人件費が上がっても黒字にはなりそうだけど……」
「そ、それじゃあ……!」
「ううん。残念だけど無理だと思う。そもそもダンジョンの生物を仕留めるのは冒険者たちだから、食べられる肉を獲るための適切な処理はできないと思ったほうが良いもの」
「なら冒険者のほうも教育すれば良いだろう」
「大人しく教育を受けるような子が冒険者なんてすると思う?」
オルナダ様が肩を竦めると、ユミエールは露骨に呆れたような顔をする。あーでもないこーでもないと意見をぶつけ合い、次第にヒートアップしていく。
僕は大変なことになってしまったと首を縮め、固唾を呑んで行く末を見守った。「言わなきゃよかった」と「でももったいなし」の間で心が振動し、全身から冷たい汗が吹き出す。
「だから価格をこのぐらいにすれば黒字だろうが!」
「黒なら良いってもんじゃないから! こんな薄い利益じゃボランティアみたいなものじゃない!」
「ならブランド化だ! 質の良い肉をダンジョンからこっちに送って高級店で出して名物にすれば良い! ここでしか食えない新種の魔物の肉だ、珍しい物好きな連中ならいくらでも出すぞ!」
「そんなバカな……。……確かにそれならそこそこいけるかも……。となると……」
オルナダ様の何度目かの提案が刺さったらしい。ユミエールは「こうしてああしてそうすればもっと……」と物凄い速さで緑の四角をつつく。オルナダ様は「勝った」とでも言いたげな顔をして両手でピースサインを送ってくれた。
「うん、なんとかなりそうね。早速プランを組みましょう。まずは教官になれそうな元狩人の子を何人か集めないと、フューリちゃんも参加してね?」
ユミエールが有無を言わせない勢いで僕を見た。オルナダ様は「え?」となったみたいに目を丸くしたけど、断る理由はないので、僕は何度も頷いた。
「よかったな、フューリ。それにしてもダンジョンで穫れる肉が食えるって~、結構客寄せになりそうっすけど~、ヒーゼリオフ様のトコは、そういうのやったりしないんすか~?」
「はぁ? うちは完全にテーマパーク型だし……」
「それは素敵ね! ヒーゼ、あなたのところもやるべきよ! フューくんたちを教官としてランピャンに招待したらどうかしら?」
話がまとまりかけたところで、なぜかシシィがヒーゼリオフに質問を投げかけ、ティクトレアがはしゃぎだした。「いや、だから……」とヒーゼリオフは呆れた顔をしたけど、ティクトレアに「モーションかけるならオルのいないトコででしょ」と耳打ちされると、「そ、そうね、悪くない案ね」とあっさり意見を変えた。
「じ、じゃあフュー。そういうことだから、ここのピックアップへの教育が終わったら、次はこのヒーゼリオフ様のトコに来なさい! 報酬は弾むわ!」
「え、ええ……? あの、でも、僕、その……」
「勝手なことを言うな。お前にフューリを貸し出してなんの得がある」
僕が返答に困ると、すかさずオルナダ様が待ったをかけてくれた。
「ランピャンは野生の魔物を食べる地方もあるし、解体や調理法の技術交流ができるんじゃない? それにダンジョンの最上階まで行けば、ご褒美でヒーゼが直接手合わせしてくれるでしょ? パーティの強化にも良いんじゃないかしら?」
「ヒーゼとか……。それなら確かに……」
「オ、オルナダ様……?」
一度は止めてくれたオルナダ様だが、ティクトレアの提案に魅力を感じてしまったらしい。口の端を持ち上げて、なにやら思案しだした。
せっかくダンジョンから戻ったのに、またオルナダ様に会えない日々に逆戻りなのか? しかもランピャンって、海を挟んだ向こうにある国だよね? 海までだって竜車で何日かかかるんじゃなかった? じゃあ行って帰って来ると一体どのくらいかかるの? 一週間でも辛かったのに!
「あ、あの、でも、オルナダ様……。ヒーゼリオフ陛下のところって、ライバルにあたるのでは……」
「それなら大丈夫だ。こいつのトコのダンジョンは、テーマパーク型といって、トラップや、景品なんかを置いて、適当に生け捕りにした魔物を放した疑似ダンジョンに、冒険者ごっこをしに行くようなところなんだ。客層も収益構造もまるで違う。それにそもそも場所が離れているしな」
なんとかランピャン行きを回避できないかと口を挟んだけど無駄だった。しかもやっぱり遠いらしい。
「それならウチのピックアップや料理人の候補者もまとめてランピャンに送って、向こうで教育しちゃったほうが良いかもね。フューリちゃんを含めた教官を何人か貸し出すから、費用はそっち持ちってことでどう?」
「はぁ!? 技術交流ならこっちもそっちに教えるでしょ!? なんでこっち負担なのよ!!」
「フューリのパーティ連中も送るから、ついでに揉んでやってくれ」
「「やった―――――!!」」
「ちょ! なんでそんなことまでしなきゃいけないの!?」
「それならばぜひ、ワシとも手合わせいただきたいですわね」
「アンタは昨日オルにボコられたばっかでしょ! 懲りなさいよ!!」
「ほほほ。懲りるなんてとんでもありませんわ。武人として魔族との手合わせは至高の経験。このコブも含めて、教官を務めた報酬ですのよ」
「ったく、これだから戦闘狂は……」
ユミエールがきらりと目を光らせ、オルナダ様が僕らの訓練を要請し、シシィとルゥが歓声を上げ、キャサリーヌが手合わせを願い出た。でも幸いヒーゼリオフは、ユミエールやオルナダ様の提案に否定的だ。僕はオルナダ様に申し訳ないと思いつつも、折り合いがつかないとかでお流れになってくれと天に祈る。
だけどそれもティクトレアが「わたくしもいくらか持ってあげるから」と耳打ちするまでだった。ヒーゼリオフは「いくらかじゃなく半分持ちなさいよ」とティクトレアを睨むと、ユミエールと費用の何割を負担するか交渉を始めた。
「六、四くらいなら良いわよ」
「うーん、九、一くらいにならない?」
「なるわけないでしょ。七、三、これ以上は無理よ」
「八、二は? オルとのデート付きで」
「は、はぁ!? ア、アンタにそんな権限ないでしょ!? そ、それにオルに興味なんか……」
「七、三で十分だろう、ユミエール。つーか俺を交渉材料にするな」
「アンタは黙ってなさいよ!! デ、デート券三十枚綴りとかなら考えなくもないわ!」
「交渉成立ね」
「おい。俺は承諾してないぞ。チケットを作り始めるんじゃない!」
ユミエールはヒーゼリオフと握手を交わし、余った資料の紙を魔法でデート券に作り変えた。僕もほしい。
「日程はまた後日知らせるから、みんな準備をしておいてね」
「はぁ、ったく……。まぁヒーゼも不味いわけじゃないから構わんか……。キャサリーヌは引き続き引率を頼む」
「ほほほ。ではワシへの報酬は手合わせチケット三十枚でお願いいたしますわ」
「わかったわかった。ふぅ、人気者も辛いな……」
こうしてオルナダ様は報酬をせしめられ、僕らのランピャン行きも決まってしまった。シシィとルゥが手を取って喜び合った。ガーティレイかヴィオレッタが異議を唱えないかと思ったけど、二人はランピャン行き自体には不満はないのか、お互いを罵り合うだけで決定に文句は言わなかった。
オルナダ様が身銭を切っているし、この状況で行きたくないなんて言ったら、オルナダ様の犬失格だろう。しかも理由が、離れるのが寂しいからだなんて、とても言えない。
「いやぁ~、次から次に任務があって調査隊は大変っすね~」
ケイシイがヘラヘラと頭の後ろで手を組む。他人事で羨ましい。
「そうだ。うちの子たちでパーティを作って、ヒーゼのダンジョンに挑戦させようかしら。フューくんたちもライバルがいたほうが士気が高まるでしょう? 成績が良かったほうにはご褒美を出すの。どうかしら?」
「おお。それは良いな、ぜひ頼む」
ティクトレアがポンと両手を合わせ首をかしげると、オルナダ様は二つ返事で提案を受け入れた。ティクトレアの隣でふんぞり返っていたケイシイが途端に冷や汗をかきだす。
「あのぉ~、ボクはもちろんお留守番ですよねぇ……?」
「あら、行きたいの? じゃああなたにはパーティのリーダーを任せるわ」
「いやぁ、ボクはお留守番のほうが……」
「もし負けたら屋敷の大掃除をしてもらうから、そのつもりでね」
「うええ~? この上、罰まであるんすかぁ? 勘弁してくださいよぉ。もっとほかの仕事のほうがボクには向いてますって。新しい壁紙を選ぶのはどうっすか? 八番の応接間を模様変えしたいって言ってたでしょ?」
リーダーに任命され、罰の予告をされたケイシイは、なんとかそれを回避できないかと代案を出すが、ティクトレアは「あなたのセンスは最悪でしょ」と笑顔でそれを却下した。
「お願いですぅ、どうかランピャン送りになんてしないでくださいぃ。デリケートなボクには旅なんて無理なんですぅ。あそこは行って帰って来るだけで一週間以上はかかるし、そのうち半分は船の上じゃないですか、きっと内蔵をそっくり全部吐き出しちゃいますよぉ。それに向こうの食べ物はほとんどボクの口に合わないし、飢え死にする危険があるんですぅ。それからそれから……」
「そう。この機会に克服しましょうね。それで滞在期間はどのくらいかしら、ユミエール?」
「うーん、二週間くらいは見ておきたいかもねぇ」
「ふむ。ひよっこ共を鍛えることを考えると、もう一週間ほしいところですわ」
「それもそうね。じゃあトータル一ヶ月でスケジュールを組みましょうか」
「「い、いっかげつ~~~~~!?」」
僕とケイシイは揃って悲鳴を上げた。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理~~~~~~~~~~!! 考え直してください死んじゃいます!!」
ケイシイがティクトレアに泣きつくのを僕は呆然と眺める。僕もあんなふうに泣きついたら、オルナダ様は考え直してくれるだろうか? そんな考えが頭を過るけど、ケイシイはまったく相手にされていないし、オルナダ様も「報酬高めに設定してやるから頑張れよ」なんてニコニコしている。言っても無駄かもしれないし、期待を裏切ることもしたくないし、「寂しいから嫌」なんて駄々をこねるのはオルナダ様の犬として相応しくない行動だろう。
こうして僕は涙と弱音とお願いを飲み込んで、長く辛い任務に就くことになった。


第十四話公開しました。

全員集合するとわちゃわちゃしてて好きw

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