2022
19
Jun

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」6


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第五話の続きになります。

第五話までのあらすじは以下のような感じです。

新設ダンジョンの調査隊に選ばれたフューリはパーティメンバーたちと集合場所で出発を待つが、メンバーの中で初対面から険悪な雰囲気の二人がどちらがリーダーに相応しいかと揉めだして、結局全員で実力を見せるための一芸を披露してようやく出発する運びとなった。

以下六話です。


竜車に揺られること数時間。延々と続く赤い荒野の先に、目的地が見えてきた。
先に到着した竜車がぽつぽつと止まっていて、走り疲れた竜がガブガブと桶から水を飲んでいた。隊員たちはすでに全員竜車から降りて、荷車に満載していた資材を運び出し、そこら中にテントを張っていた。オーガやドワーフたちは資材を担いで、エルフやホビットは操作魔法で浮かせて運び、次々と種類ごとに積み上げていくのが見える。調理班が昼食の用意を進めているのか、切り出されたばかりのハムや、焼けるソーセージの匂いが風で運ばれてきていた。
しばらくして僕らを乗せた竜車も、他の竜車と同じ場所に止まった。ちょうどお昼休憩のタイミングだったので、調理班の人が山盛りになった具だくさんのサンドウィッチを竜車に運んでくれた。
僕は横の切り込みから、卵やハムやソーセージ、葉野菜、トマトなんかが、これでもかというくらいはみ出したバゲットサンドを手に取り、かぶりつく。油と卵とレモンの味がするソースとバターの風味が鼻に抜ける。油類をふんだんに使っているのかジューシーな味わいで、それなりに硬さのあるバゲットは食べごたえを感じさせる食感だった。
とても美味しいのだけど、大きくて食べづらいのか、シシィたちはスライスされた黒パンのサンドウィッチばかり食べていた。バゲットサンドを食べるのは僕とガーティレイだけで、そのせいか二人で競い合うようにして食べることになり、味や香りを堪能できたのは最初の数口だけになってしまったのが残念だった。
昼食を終えて一息ついた頃、僕らはいよいよダンジョンへと向かうことになった。ブゥプが部下らしいドワーフと一緒に先頭に立ち、入り口へと案内してくれた。僕ら調査班とオルナダ様たちは、その後をぞろぞろとついていく。
ダンジョンの入り口は、巨大な円筒形の穴だった。直径が僕の背丈の十倍はあるだろう大穴が、地面に対して斜めに空いていて、緩やかな下り坂を作って奥深くまで伸びていた。中の壁は丸串を突き刺された芋みたいに表面がつるりとしていて、普通の洞窟とはまるで違う雰囲気だった。中はずいぶんと気温が低いらしく、ひんやりとした空気に乗って、様々な魔物の匂いが運ばれてきていた。僕は腰の後ろに括り付けていた毛皮のマントを再び羽織った。
「ではこれより、ダンジョン探索へ出発いたしますわ。まずは自分たちで隊列を……」
「隊などいらぬ。この私ひとりで一掃してくれるわ!」
「抜け駆けとは卑怯な!」
先頭に立ったキャサリーヌが振り返ると同時に、ガーティレイが入り口に飛び込み、ヴィオレッタがあとを追って、真っ暗なダンジョンへと消えていった。
「結局、足並みは揃わないのね……」
「確実にガーティレイのせいだな。誰だ、あんなヤツを選んだのは」
「オル、あなたそれ、ギャグで言ってるの?」
僕らの後ろにいたユミエールとオルナダ様が、呆れた様子でため息を吐いた。
「このダンジョンはまだ一本道なのでしょう? ならそのうち痛い目を見て戻ってきますわ。本当に単独で攻略できるのなら、それはそれで構いませんし。残りで隊列を組んでお進みなさい」
「そうだな。じゃあお前たちしっかりな。俺たちは隠匿魔法で姿を消すが、ちゃんと後ろから付いていくし、もしものときは助けるから大船に乗ったつもりで進むと良いぞ」
オルナダ様がウインクをすると、キャサリーヌ、ティクトレア、ヒーゼリオフ、ユミエール、ケイシイと一緒にすーっと薄くなって消えた。ケイシイは「ボクはお留守番がいいなぁ~」と小声で呟いていたけど、この分だと一緒に行く流れになっていそうだ。
「それでは殿下っっっ! 無事にお戻りいただけるようお祈り申し上げておりまっっっす!!」
名残惜しそうに手を振るブゥプに見送られて、僕らはいよいよダンジョンに足を踏み入れることになった。

僕、ルゥ、シシィの順で隊列を組んだ僕らは、緩やかな傾斜のついた地面を下り、ぽっかりと空いた穴の奥へと進んでいった。すぐに陽の光が届かなくなり、目の前が真っ暗になっていく。腰に下げた光石のランタンがなければ、足元さえも見えない暗闇が広がっていた。魔法で掘られたためか、表面がつるりとしていて、長い木のカップの中でも歩いているみたいだった。所々に、魔物か動物が掘ったらしい小さい横穴がぽつぽつと空いている。
「ペース早くない? 大丈夫かな?」
僕は上半身を捻り、後ろを振り返る。大盾越しの光景には、ルゥとシシィの姿しかない。本当に三人だけでダンジョンに入ってきたみたいだった。
「私は大丈夫。ルゥは?」
「ル、ルゥも平気でしゅ!」
シシィは初めてのダンジョンが楽しいのか顔が笑っていて、ルゥはなんとなく怖がっているように見えた。ルゥが怖がっているのはダンジョンでなく僕かもしれないので、とりあえずこのままのペースで進むことにした。
「一階は大抵なにもないって言うけど、本当なんだな」
「でもこういう色の違う石とかは、たぶん鉱物資源でしゅよ。きっとあとから来る採掘班が回収するでしゅ」
「ホントだ。私らの担当じゃないけど、ちょっと見てみるか。コマンド、鑑定!」
二人は足を止めて、足元の石を覗き込む。ルゥもシシィと同じく冒険者志望らしい。きっと今の二人は宝石でも見つけたような気分なんだろう。
「該当なしだって! 早速、未知の鉱物登場とは、新設ダンジョン恐るべし!」
「うぅ~、掘っていきたいでしゅねぇ~」
二人は拳を上下に振りながら、その場で地団駄を踏んだ。実際の冒険者パーティだったら、この石を持ち帰って換金したり、武器や防具の素材に使うから、それが出来ない状況が歯痒いのかもしれない。僕は気の毒なような、面白いような気持ちで二人を眺めた。
そのとき奥のほうから、血の匂いが流れて来るのを感じた。
「急ごう、ガーティレイさんとヴィオレッタさんが戦闘中っぽい!」
「ほ、ほんとでしゅ! 血の匂いがしましゅ!」
「マジか。走るのは良いけど、私がついて行けるペースで頼むぞ!」
僕らは隊列を崩さないよう気を付けつつ、匂いの元へ急いだ。
筒の端まで行くと、地面にオーガ二人程度なら楽に通れそうなサイズの階段があり、僕らはそこを降りて第二階層へと突入した。時折、ギィンッ、ガイィンッと、金属がぶつかり合う音と、ガーティレイとヴィオレッタが罵り合う声が聞こえてくる。とりあえずは無事らしい。
緩やかにカーブした筒をしばらく走ると、やがて交戦中のガーティレイとヴィオレッタの姿を見つけた。二人はルゥより一回り大きな、イタチに似た生物に取り囲まれていた。イタチはモグラのような爪のついた図太い手足を持ち、狐のような大きいしっぽが生えていた。二、三十頭はいるだろう。好戦的な性格らしく、ゲゲゲッと威嚇の声を上げては、二人に攻撃を仕掛ける。それなりに知能があるらしい。小さな個体が口から一斉に石の礫を吐き出し、それに紛れて大きな個体が牙を剥き出して噛みつきに飛びかかっていく。
ガーティレイとヴィオレッタは、飛びかかってくるイタチを我先に迎撃しようとして、足を引っ張り合っていた。攻撃が当たる前に、互いの武器が衝突し、火花と金属音を上げる。衝撃でイタチは吹き飛ばされるものの、外傷は負っていない。そして二人は次のイタチが飛びかかってくるまで「邪魔だ」「そこをどけ」と、お互いに武器を向け合う。
なにと戦っているのかわからない戦い方だけど、何頭かのイタチは攻撃を食らったらしく、隅のほうで血まみれのひき肉になっていた。
「な、なんてことを……!」
僕は思わず声を上げた。大盾を地面に突き立て、シシィとルゥに「ここにいて」と言い残し、衝突寸前の斧と剣の間に飛び込んだ。
「二人共、なにしてるんですか、止めてください!」
斧を振り下ろすガーティレイの肘を左手で、剣を切り上げるヴィオレッタの手首を右足で受け止める。背後からイタチが飛び掛かってくる気配がしたので、ぐんと身体を伸ばして二人を退け、身を翻してイタチを躱す。
「ちっ、余計な真似を……。邪魔立てするなら貴様も叩き斬るぞ!」
「その通りだ。陛下の犬は下がっていてもらおう」
「そういうわけにはいきません」
僕は強い口調で断った。
イタチの群れの真ん中で、僕ら三人が睨み合うのを、シシィとルゥは不安げに見つめていた。あまり長いこと二人を放っておくのはマズイ。僕はひき肉になったイタチを指差し「あれはどういうことですか!」と大きい声を出す。
ガーティレイとヴィオレッタは、僕の言いたいことがわからないらしく、二人で眉を顰めて「魔物がどうした」と武器を握り直した。
どうやらこの二人は変なところで気が合うらしい。お互いの決着をつける前に、邪魔者の僕を排除しようと思ったようだ。
目配せもしないのに、まったく同じタイミングで僕に向かってくる。
落ち着いて話を聞いてもらいたかったけれど、仕方がない。僕は二人の攻撃と、援護担当のイタチが飛ばす礫を躱し、死角から突進してきた攻撃担当イタチを一頭捕まえる。
とりあえずは一頭いれば良いから残りは邪魔だ。
大きく息を吸い込み「ガウッ」と一声吠える。イタチたちはすくみあがり、チチッと弱々しく鳴いて散り散りに逃げていく。
『技能「捕食者の咆哮」を検知しました。技能LVを計測します』
一瞬、僕は「は?」となる。ただの大声なんだけど、ステータスボード的には技能に当たるらしい。小物を追い払うときに便利だからだろうか?
考える間にも、ガーティレイとヴィオレッタは攻撃を繰り出してくるし、左手に捕まえたイタチは逃げ出そうともがく。もう群れは追い払ったのだから、攻撃は止めてくれてもいいのに。
僕はとりあえずイタチを大人しくさせようと、腰から山刀を抜いて喉を切り裂く。イタチはゴボゴボと血に溺れる音が混じった甲高い悲鳴を上げて、激しく暴れた。
「お二人共、獲物に与える傷はこんな感じで最小限にしてください! 動脈か心臓を一撃が基本です!」
こう言えば、僕は止め刺しのやり方を直してほしいだけだと伝わるかと思ったけど、二人は耳を貸さない。そればかりか再び攻撃動作に入っていた。
ヴィオレッタが素早い突きを、連続で繰り出す。額、喉、胸と、急所を狙っているように見せているけど、さすがに殺すのはマズイとわかっているようで、結局、切っ先は緩やかに外側に逸れて、薄皮一枚を切り裂くかどうかという軌道を流れていく。避けるまでもないくらいだ。
一方、ガーティレイの斧は、完全に身体を真っ二つにする軌道で振り下ろされる。一発芸大会のときより早い斬撃だ。本当にこの人はなにを考えているのかと内心呆れた。胸を反らし、ぎりぎりで躱す。
魔法でイタチを宙に浮かせ、同じく魔法で腰のポーチから取り出したシート状のスライムを巻き付け全身を覆う。スライムが体表の汚れを消化する間、浮かせたイタチを背後に庇い、二人の攻撃を捌く。
ガーティレイが斧を大きく真横に振る。風圧に乗って後退すると、斬撃の影からヴィオレッタが飛び込んでくる。
今度は遠慮がない。
振りの小さい細かな斬りが上下左右から繰り出される。僕はその全てを山刀の背で剣を弾き、その軌道をギリギリ当たらない流れに変えた。
ヴィオレッタは「チッ」と舌打ちをし、ガーティレイの後ろまで下がる。
あんなに仲が悪そうなのに、なぜ連携を取ったような動きをするのか。とても解せない。でも今はそんなことよりイタチの解体が先だ。
僕は二人の攻撃を躱しつつ、ポーチからスライム製のグローブと、フック状の刃のついた刃幅の広い皮剥ぎナイフを取り出した。それらを身に着け、イタチに巻いていたシートを魔法で外す。
そして浮かせたイタチの喉の皮にフックに引っ掛け、腹までを一直線に割く。
胸骨もまとめてと思ったが、思ったより硬い。仕方がないので、皮剥ぎナイフを握ったまま、人差し指に作った魔装の爪でカットした。切れた肋骨を魔法で左右に広げ、胸を開く。薄い膜の向こうに肺と心臓が見える。
ガーティレイとヴィオレッタが、浮いたイタチを凝視して足を止め、顔を青ざめさせた。武器を構えたまま、ものすごい速さで後ずさり、身を寄せてぷるぷると震えだす。
「き、貴様! な、なにを考えておるのだっっっ!」
「へ、陛下の犬のくせに、り、猟奇趣味など、ごごご、言語道断であるぞっっっ!」
一体この二人はなにを言ってるのか。それに実は仲が良いのか? わけがわからないけど、もう戦意はないらしい。これで落ち着いて解体作業を進められる。
僕は腰のポーチから、先端に金具のついた短いロープを取り出した。金具同士を繋いで魔力を注ぐと、輪になったロープが青く発光し、中央で氷が生成されて、ごろごろと地面に落ちてくる。
「なんだそれ?」
シシィが盾の影から出てきて、ロープをしまったポーチを見つめた。なぜか背中にくたりとしたルゥを乗せている。
「氷を作ってくれる魔術器。持ち歩きやすいのがほしいって言ったら、オルナダ様が作ってくれたんだ。……ルゥちゃんどうしたの……?」
「さっきの「ガウッ」のときに倒れた。まぁ、気絶してるだけだから大丈夫」
「そ、そっか……」
頭に『捕食者の』がつく技能は、ルゥの前では使わないようにしないとなと思った。できれば恒常技能の『捕食者の気配』もなくなってほしい。僕はかくんと肩を落とした。
「てかさっきのすごかったな! お前の対人戦初めて見たけど、二人の攻撃完璧に捌いてたじゃん!」
「そうかな? さっきのはそんなに速くなかったから、動きが読めればシシィもできると思うよ」
シシィは二人に聞こえないよう小声で、それでも興奮したような口ぶりで言った。
人と戦っても食べられないのに、なにに興奮してるんだろうか? 僕は適当な相槌を打って、獲物の処理に取り掛かる。
「肉がダメになりますから、仕留めた獲物はできるだけすぐ冷やさないとダメです」
誰にともなく言って、さっきイタチに巻いたシートを地面に敷いた。イタチを寝かせ、周りに氷を寄せて体温を奪うようにする。胸は開いたので、今度は腹からお尻にかけてを切り開く。
「心臓、思ったよりちっさいな」
「だね」
手元を覗き込むシシィを見ると、ヨダレが垂れそうな顔をしていた。早く食べたいらしい。僕も同じ気持ちだ。お昼ご飯を食べたばかりだけど、獲れたての内臓は最高のご馳走なのだから、無理もないことだろう。
僕はイタチの後ろ足を限界以上に広げ、股関節を砕く。腹まで入った切込みを、お尻の方へ広げていく。排泄器官と生殖器の周りをぐるりと切り取って、糞尿が漏れ出さないよう、直腸と尿道をスライム製の紐で縛る。
イタチの腹の中にはビッシリと泡立ったような脂がついていた。
じわっと口内に唾液が染み出す。焼くなら脂の落ちる串焼き、煮るならお湯で流してからトマトで煮込むのが良いだろうか。どちらにしても美味しそうだ。
喉の奥に手を突っ込んで、管類を切り離す。喉の管周りに腫れはなく、健康体であることが伺えた。なかなか良い獲物だと、僕はうんうん頷いて、掴んだ管を引っ張る。引きずり出した内臓をシートに乗せて、消化器系とそれ以外に分け、空になった腹腔から血を掻き出し氷を詰める。
「どうだ、見事な手際だろう」
「そうね。昔、お祭りで見たのより、断然早いわ」
「ま、まぁ確かに見事ね。でもちょっとよ。ちょっとだけね!」
「心臓のスライスひとつ」
顔を上げると、隠匿魔法を解いたオルナダ様たちが、深皿を差し出すシシィの隣に立っていた。
「えっと、じゃあみんな一切れずつ食べられるように切りますね。あ、でも、火どうしよ……」
「心配ない。俺が熱を入れてやろう」
「あ、私の分は加熱いらないっす! こんな事もあろうかと、分割払いで解毒皿を買っておきましたから。これなら生でもいけます!」
シシィがオルナダ様の前に、銀色の皿を掲げた。
解毒皿は身体に害のある物質を消滅させる術式が掘られた魔術器で、毒殺される危険がある王族などが好んで使う食器らしい。時として野草や野生生物を食べなければいけない冒険者の必須アイテムでもあるそうだ。
「確かにそれに乗せれば生でも食えるだろうが……。加熱したほうが美味いんじゃないか?」
「いーえ。絶対生のほうが美味いっす。だってこいつ、いつも必ず生で食べますもん」
「そうなのか、フューリ?」
オルナダ様は目をぱっちりと開いて僕を見つめた。
確かに僕は獲物を捌くと、その場で生で食べてしまうこともある。だけどそれは、獲物の大小や、熟成の要不要だったり、持ち帰る際に重量を減らしたいとか、色んな理由があってそうしているのであって、必ずしも生の方が美味しいからというわけではない。それに僕が生の肉や内臓を好むからといって、みんながそれを美味しく感じるかはわからない。なにより、肉を生で食べても平気な丈夫なお腹を持つからこそ可能なことであるため、おすすめはできないのだ。
「あー……。みなさんが生で食べるのは、危ないと思います……」
「でも生のほうが美味いんだな? そうなんだろう? なぜ今まで隠していた」
「いえ、あの、だから危ないのでですね……」
「よし、生で食うぞ。シシィマール、ちょっとその皿を貸せ」
オルナダ様は生のほうが美味しいという確信を持ってしまったらしい。シシィから皿を受け取ると、術式を確認して「ヒューマー用だな」と呟く。そして魔法で皿に掘られた溝をうねうねと動かして、別の術式に作り変えてしまった。
「これで全種族対応だ」
オルナダ様は目をキラキラとさせて、僕に皿を差し出した。オルナダ様の後ろのティクトレアやユミエールまで、そういうことなら自分も生で食べたいと言い出す。魔術に詳しいだろう魔族やエルフがみんなそう言うなら、解毒皿には確かな効果があるんだろう。
僕はピンク色をした鶏卵サイズの心臓を切り取り、スライムグローブでよく揉んで、付着した血を吸い取った。調理用のナイフで人数分にスライスし、ポーチから取り出した塩を脇に添えて、オルナダ様に返した。
オルナダ様は皿の持ち主であるシシィに最初に一切れを選ばせ、次に自分が一切れ取って、ユミエールに皿を渡した。
「「うんっっっま!!」」
みんなより先に心臓を口に入れたオルナダ様とシシィが同時に声を上げた。
「本当、コリコリしていて美味しいわ」「なんだか不思議な触感ね」と、ティクトレアとユミエールが顔を見合わせる。キャサリーヌは「ワシも現役時代にはよく食べたものですわ。酒がほしくなりますわね」としみじみ言って、ヒーゼリオフは思い切ってという顔で口に入れたあと、咀嚼するにつれて美味しい顔へと表情を変えた。いつの間にか復活したルゥも、ふわふわの口を細かく動かしていた。
ところが、真っ先にがっついてきそうなガーティレイの姿がない。見回すと、ヴィオレッタ、ケイシイと一緒に、さっきよりさらに青い顔をして「おげー」と嘔吐いていた。吐き気を催すようなものなんて近くにあったろうか? と僕は首を傾げた。
ガスの類なら匂いで気付くし、この場の全員に影響が出るはずだけど、三人以外はなんともなさそうだ。昼食を摂ってすぐ動いて気分が悪くなった、というのも考えにくい。ひょっとして、極小サイズの虫にでも刺されたんじゃないだろうか?
僕は警戒を強めたけど、シシィが「みなさんもどうぞ」と三人に皿を差し出したとき、三人は揃って飛び上がり「ギャーーー!! やめろ! 近付けるな! グロいグロいグロい!!」と叫んだので、内臓が苦手なんだということがわかった。
そういえば、昔のシシィも解体作業のときによくこうなっていたっけ。懐かしく思うのと同時に、原型を留めないひき肉を作るのは平気なのかとちょっぴり呆れた。
「二人共、意外と繊細なんすねー。食べられるときに食べるってのは、戦闘職の必須能力なんすけどー?」
シシィは三人が震え上がるのが面白いらしい。ニタニタと笑って皿を近付けたり遠ざけたりしている。
「やー、こんなんでこの先やってけるんすかねー。ただの肉の切れ端っすよー? 意外とビビりなんすねー」
「「ビ、ビビってなどおらんわ!!」」
ガーティレイとヴィオレッタが、ビビりという単語に反応して、シシィを睨みつけた。
「こ、こんなのアレだ。ちょっと無茶苦茶キモチワルイだけだ!!」
「そ、そうとも、ただ少々嫌悪感で全身の毛が逆立っているにすぎん!!」
「そんなキモいっすかね? まぁ、一度食っちゃえば、美味そうとしか思わなくなりますよ」
「あ、ボクはめっちゃビビってるし、キモ過ぎて無理なんで、遠慮しまっす~」
相変わらず意地の悪い笑みを浮かべたシシィが皿を差し出すと、ケイシイはサササッとティクトレアの後ろに隠れた。しかし残りの二人は後に引けないようだ。皿の前で硬直したまま動かない。でも負けず嫌いの二人はいつまでもそうしてはいなかった。どちらからともなく手を伸ばし、苦悶の表情を浮かべて、同時に心臓の切れ端を口に放り込んだ。そうしてすぐに「あ、普通に肉だな」という顔になる。
「ふ、ふはは。なんだ、ゲテモノかと思ったが、なかなかイケるな」
ガーティレイは豪快に笑ってみせると、皿に残っていた切れ端をすべて口に入れてしまった。ケイシイと僕の分だった。
「……美味しいでしょう?」
「おお。貴様は気に食わんが、これは美味いな」
「うむ。馴染みのない味と食感だったが、確かに美味であった」
二人に近付き顔を覗き込んで尋ねると、笑顔で肯定した。
「ああなったら、食べられないんですよ。わかりますね?」
『技能「捕食者の覇気」を検知しました。技能LVを計測します』
ひき肉を指すと同時に通知が響いた。オルナダ様たちと一緒に立っていたルゥが、ふらりとよろめき地面に倒れた。
この捕食者シリーズ、本当にいい加減にしてほしい。ガーティレイたちまで「お、おう」と顔をひきつらせているじゃないか。なんなんだもう。
心臓も食べそこねたし、僕はなんだかがっくりきてしまった。


第七話公開しました。

解体の方法とか狩猟系のところは一応調べて書いてますが、実際やったことはないので間違ってても許してちょ。
ファンタジーの生き物だから性質が現実と違うとかそういうことでよろしく。
あとリアルの生食は感染症とかになる危険性があります。牛のレバ刺しも禁止になりましたしね。はぁ、また食べたい。

この他のオリジナル百合小説はこちらへ。
オリジナル百合小説目次

ちょっとでもいいなと思ったら、記事下のソーシャルボタンから拡散していただけるとありがたいです!

クリックで試し読み!
↓↓↓↓↓
百合ごよみ

 
コメントは利用できません。