2022
3
Jun

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」5


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第四話の続きになります。

第四話までのあらすじは以下のような感じです。

調査隊に選ばれたフューリとシシィは、装備を受け取りに備品庫を訪れた。そこで二人は調査隊でパーティを組む、オーガののガーティレイと、ダークエルフのヴィオレッタに遭遇する。ガーティレイとヴィオレッタは反りが合わないらしく、早速言い争いを始めてしまう。パーティでの連携に不安を感じたフューリとシシィは装備を選び直すことにした。フューリは盾役になるために大盾を選び、シシィを待っていたが、そこでもう一人のパーティメンバーである人兎を帽子と間違えて持ち上げ、悲鳴を上げられてしまうのだった。

以下五話です。


調査隊の集合場所は、最外層城壁の南門を出たところだった。
まだ集合時間には余裕があるにも関わらず、ざっと百人はいるだろう人々が集まっていた。制服を着ている人もいれば、作業服の人もいる。中には壁外のキャンプから招集されただろう、ボロ布のような服を着ている人の姿もあった。
空中には各班の集合場所を示す、採掘班、建築班、物資班、救護班、調理班といった緑の文字が浮いていて、外壁側の一角を中心に扇形に並んでいた。班の集合場所の後ろには、幌のついた大きな四輪の荷車がいくつも並んで、それぞれの轅の間に小型の草食竜が二頭繋がれている。
馬車にも乗ったことのない僕は、「あれが竜車か、楽しみだな」とその光景を眺めつつ、調査班の文字の下へと足を運んだ。先に来ていたガーティレイと、鎧のダークエルフは備品庫からずっとケンカを続けているようで、顔を突き合わせ何事か怒鳴り合っていた。二人共熱くなっているのか、半裸のガーティレイは全身から、ダークエルフは頭から湯気が出ている。
日が昇り始めたばかりでまだ寒いのに、ガーティレイはあんな格好で平気なんだろうか? と思いながら、僕は毛皮のマントのボタンをもう一つ留め、白い息を吐いた。
せっかく友達を作ろうと思っていたのに、僕とシシィ以外のパーティのメンバーが、この二人と僕を見て気絶した人兎では、とても無理だ。ガーティレイとはあまり関わりたくないし、ダークエルフは気難しそうで、雑種の僕なんかとは口も聞いてくれない気がする。人兎にいたっては気絶するほど僕を怖がっていたので、できるだけ距離をとってあげないと可哀相というものだろう。
お尻を掴んでしまったことが、トラウマになっていないといいのだけど。なんて考えていると、胸当てに肩鎧姿のシシィと、黒いローブを着た人兎が南門を抜けて、こっちに歩いてくるのが見えた。きっと仲良くなったんだろう、二人は談笑している様子で、僕は少し寂しい気持ちになった。
「フューリ、こちらルゥ。ルゥ、こっちは、まぁ知ってると思うけど、フューリだ」
「ででででで、殿下っ。さ、先程は大変しちゅれいを、いたちまちて……」
僕のところまでやってきたシシィが、僕に人兎を紹介してくれたけど、このルゥという人兎の子はやっぱり僕が怖いらしかった。ローブから覗く大きい足が、ブルブルと震えている。
「えっと、殿下っていうのは……。あの、フューリで大丈夫で……。その、よ、よろしく……」
僕はルゥが少しでも怖くないようにと、数歩後ずさり、しゃがんで目の高さを近づけつつ挨拶した。ルゥは「よろしくお願いしましゅ」と言ってくれたものの、今にもまた気絶しそうに、ふらふらとしていた。
「あー……、やっぱダメか。なんかお前から出てるオーラが怖いらしい。たぶんさっき言ってた技能のせいじゃないかと思うんだけど……」
「そ、そっか……。その、なんというか、すみません……」
「と、とんでもございまちぇ……」
「とりあえず、ルゥはガクブルしないトコまで下がるか。こいつ別に怒んないからさ」
シシィがそう言って、ルゥを僕から遠ざけた。僕は怒りはしないものの、例の技能を深く呪った。
そんなやり取りをしていると、ふっと鼻先を大好きな匂いが掠めた。間を置いて周囲の人々がどよめきだす。立ち上がって匂いのする方角を見ると、オルナダ様が三人の人物を伴ってこちらに向かってきていた。
一人は足首辺りまである長い銀髪の人物だった。タイトで袖と裾がヒラヒラとした、ドレスとも祭服ともつかない白いローブを纏っている。
もう一人は日に焼けた健康そうな肌と、不思議な髪型が特徴的な人物だ。銀色の髪を団子にしてからサイドに垂らしている。袖が極端に短く両脇に切り込みの入った、詰め襟の赤い服を着ていた。イラヴァールではあまり見掛けない感じの服装だ。
二人共、オルナダ様と同じくらいの身長で、赤い目をしているから、きっと魔族なんだろう。魔香も濃厚で、魔力の高さが感じられた。
最後の一人は、ひょろりとした長身のエルフで、いわゆる執事服を身に着けていた。頭の両脇を刈り上げた短髪や、どことなくひょうきんな顔立ちに三白眼と、あまりエルフっぽくない印象の人物だった。
三人とオルナダ様の元に、ユミエールとブゥプが駆け寄る。オルナダ様は二人に、連れの魔族が調査の見学を希望したため同行したいと要件を伝えた。ブゥプが歓喜の叫びを上げ、部下を連れてバタバタと南門の方へ走っていった。追加の竜車の準備なんかがあるのかもしれない。
「なぁ、向こうでなんかあったのか?」
僕がオルナダ様たちのやり取りを眺めていると、シシィが僕の袖をくいと引っ張った。シシィの身長では、人垣に遮られて様子が見えないようだ。僕はシシィに、オルナダ様が他の魔族の人を連れて同行するようだと伝える。するとシシィが、どんな魔族か見たいと言うので、僕はシシィの脇の下に手を入れて高く持ち上げた。
「どれどれ~。お、ティクトレアか。こんなトコに出てくるなんて珍しいな。もう一人は、ヒーゼリオフっぽいけど、敵情視察にでも来たのか?」
「詳しいね。ていうか敵って?」
「ほら、ヒーゼリオフはランピャン国のダンジョンマスターだろ? イラヴァールがダンジョン作るって聞いて、見に来たんじゃないかって話よ。ま、ランピャン国は海挟んだ向こうだし、系統も違うから、商売敵にはならないと思うけどな。ちなみにティクトレアはイラヴァールの大臣的な人だから、ちゃんと覚えとけよ」
シシィの話からすると、ローブのほうがティクトレアで、詰め襟のほうがヒーゼリオフなんだろう。僕は立場上、この二人と直接会う可能性もあるから、しっかり顔を覚えておこうと思った。
そうこうするうちに、ブゥプがラッパのような魔術器で、大きな声をさらに大きくして全体に号令を掛けた。僕らはそれに従い、気をつけをして、外壁側の一角に設置された演壇に注目した。
「貴様ら、よぉぉぉっく聞けぃっっっ!! なんと此度の調査に、我らが正統の魔王、オルナダルファウルス・ギルオウーフ・レ・ギルオウーフ・ヴェンダリオン・ラウ・ガルダーフ陛下と、極拳の魔王、ヒーゼリオフメイオン・フライヤー・レ・キャプタシス・アジィエリオンヌ・ラウ・タルフェウス陛下、そして、イラヴァール国賓担当大臣、ティクトレアルミナス・ダンピーザ・レ・アルフェオンストリア・シクスタスラナトゥ・ラウ・ヴィクティム閣下の御三方がご同行召されることとなったっっっ!! 一同っっっ、鬨を上げぇぇぇいっっっ!!」
ブゥプが天を指差すと、その場の全員が、おおおおおおおおおお!!!!!!!!!! と声を上げた。
面食らっているうちに声は止み、ブゥプから魔族らに失礼のないようにと注意があり、オルナダ様がねぎらいのスピーチをして、ティクトレアとヒーゼリオフに一言をとラッパを渡した。ティクトレアは「今日はわたくしたちも同行させてもうらうけど、みんな固くならずにいつも通りの良い仕事をしてね。みんなの力で素敵なダンジョンができることを期待しています」と和やかに手を振り、ヒーゼリオフは「このヒーゼリオフ様がたまたま暇だったから見に来てあげたわ。光栄に思うことね。べ、別にオルと遊びたくて来たってわけじゃないんだから、そこは勘違いしないでよね!」とティクトレアにラッパを持たせたまま、腰に手を当てた。
「わーお。あれがツンデレってヤツか。ホントにいるんだな。てか本音言っちゃってるし、ツンデレってかデレデレ?」
隣に立ったシシィがヒソヒソと言ったけど、僕には意味がよくわからなかった。
壇上では執事服のエルフがラッパに手をかけようとしたのを、ブゥプが取り上げて「続いてユミエール閣下から調査についてのご説明があるっっっ」と宣言し、エルフがぽそっと「え、ボクの紹介なし?」と呟くのが聞こえた。
ブゥプがエルフを後ろに下げると、ユミエールの説明が始まった。僕らの仕事は事前に聞いていたとおり、ダンジョンの難易度測定への協力と、遭遇した魔物を討伐して素材を獲ることだった。他の班は、鉱物等の資源採取や、地上設備建造のための準備、建材や食料の輸送などを行うらしい。
「それじゃあ調査班以外は、準備が整い次第、順次出発してね。解散」
ユミエールの指示で、各班は一斉に自分たちの竜車へ乗り込んだ。いっぱいになった竜車が一台ずつ、朝日に染まった巨大な赤い岩の柱が立ち並ぶ、広大な荒野へと走り出していく。後には僕ら調査班五人と、ユミエール、ブゥプ、オルナダ様。それからオルナダ様が連れてきた三人の、十一人が残された。

ブゥプが調査隊に含まれていない部下に演壇の片付けを命じる横で、オルナダ様たちは談笑していた。僕ら調査班は集合場所でぽつんと突っ立っていたが、やがてヴィオレッタとの口喧嘩が一段落ついたガーティレイが、演壇へ向かってのしのしと歩きだしたので僕らもそれについていった。
こっちを向いて左手を上げたオルナダ様と目があった。呼ばれている。確信した僕はダッと駆け寄って、オルナダ様の前に片膝をついた。
「こいつが俺の犬、フューリだ。良いだろ。フューリ。こいつはティクトレア、あっちはヒーゼリオフだ」
「お、お初にお目にかかりま、ヒック……。フ、フューリと申します」
僕は膝をついたまま、頭を下げた。緊張で少ししゃっくりが出た。
機嫌を損ねていないかと顔をあげると、どういうわけか二人は砂糖菓子でも見るような顔をしていた。僕と目が合うとさっと表情を消して、コホコホと咳払いをする。
「よろしくね。フューくんって呼んでも良いかしら?」
「じ、じゃあヒーゼリオフ様はフューって呼んであげるわ! 光栄に思いなさい!」
「どうもー、ボクは……」
「あなたは下がってなさい」
「はぁい……」
二人が僕に挨拶を返し、隣にいた執事服のエルフも挨拶をしようとしてくれたけど、なぜかティクトレアの命令ですっと引っ込んでしまった。一体この人はなんなんだろう?
「え、えぇと……。よ、よろしくお願いいたします……。お二人のことはなんとお呼びすれば……?」
「呼び捨てで良いぞ。魔族はそういうの気にしないからな。呼びづらいならヒーゼリオフは陛下、ティクトレアは閣下で良い」
「で、では陛下、閣下と……」
「あら、そんなに固くならなくていいのに。わたくしはティクトレアちゃんとかもっとフレンドリーな呼び方で構わないわよ? フューくんとは仲良くなりたいと思ってるしね」
「ヒ、ヒーゼリオフ様もそれで構わないわ。べ、別にアンタだけ特別ってわけじゃないけど!」
ティクトレアは僕の顔を覗き込んで、にっこりと微笑んでみせた。魔族は基本的に貴族のような立場にいることが多いが、庶民に対しても分け隔てなく接する人が多いと聞く。この三人の様子をみると、どうやら本当らしい。だからといって、ちゃん付けで呼べるはずなんかないけれども。
「おい、オルナダ。私の紹介はなしか?」
僕の後ろまでやってきたガーティレイが、ふんぞり返って腕組みをした。オルナダ様が「いやお前、俺のなんだよ」と呆れた顔をすると、そこへユミエールとブゥプが困った様子で駆け寄ってきた。
「オル、キャサリーヌがまだ来てないから、連れてきてくれる?」
「うええ、嫌だ。俺はまだこいつらに飼い犬じま……、じゃなくて紹介を……」
「やっておくから行ってきて、あなたが選んだ指導教官でしょう」
オルナダ様は面倒そうな顔をした。だけど結局説き伏せられてしまったのか、しぶしぶ転移魔法でどこかへ消えた。僕らは調査班に選ばれたと言っても、まだ半人前の学生扱いなので、教官が同行してくれるらしい。ダンジョンもパーティーを組むのも初めてだから、これはとても心強いなと僕は思った。
「じゃあ待つ間、簡単に自己紹介をしててね」
「陛下、閣下に失礼のないようになっっっ!!」
言われて僕らはお互いに、名前と種族、職業LV辺りを述べて、簡単な自己紹介をした。白い鎧のダークエルフは、ヴィオレッタというらしい。職業はLV36のルルクード地方騎士だそうだ。他のメンバーの職業は、シシィがLV15の軽戦士、ルゥがLV48の支援魔法使い、ガーティレイがLV62オーガ戦士を名乗った。もちろん僕はLV99の飼い犬を名乗ったが、シシィに「こいつはレベルマのレゼリ山岳地帯狩人っす」と訂正された。
「恐れながらユミエール閣下。我はこの人選に疑問が……。いえ、各人のLVを聞き、確信いたしました。此奴等とパーティを組むことについて、はっきりと異議を唱えさせていただきたく思います」
ヴィオレッタがユミエールの前に跪き、強い口調で言った。ユミエールが「あら、どうして?」と首をかしげると、ヴィオレッタは各人のLVがあまりに違うため、とても連携が取れないと意見した。
「率直に申し上げて、此奴等は騎士LVに換算すると、誰も十以下でしょう。正当な手順で参加資格を得たとは思えない者も少なくありません。LV三十以上の者で再編すべきと愚考いたします」
「ふん。騎士LVとやらは、戦闘力が高いほど低下するらしいな。なにで上昇するのだ? お遊戯か?」
「このオーガに至っては、あまりに下品かつ規則を軽んじており、連携を乱す危険要因であることは明らかです」
「くだらん。魔物の討伐など、私一人でカタがつく。連携など不要だろう」
姿勢を変えないまま話し続けるヴィオレッタに、ガーティレイがチャチャを入れる。僕は不安と困惑から、シシィとルゥの顔を伺った。シシィはうんざりした顔をして、ルゥはぷるぷると震えていた。
ユミエールは特に表情を変えずに「そうね、騎士のあなたには納得いかないかもね」と、いつも通りの穏やかな口調で頷いた。
「確かにあなたの言うとおり、通常の討伐任務は、対象を確実に討伐できるLV帯の人で編成するけど、今回の任務は討伐が目的じゃないの。あなたたちの任務は主に、ダンジョンの難易度測定なのね。だからあえて冒険者パーティらしい、アンバランスなメンバーで構成しているというわけ」
ユミエールが言うには、冒険者パーティーというのは通常、同郷の者や、道中で気が合った者、その場の利害がたまたま一致した者などの寄せ集めで出来ていることがほとんどなのだそうだ。必然的にLVや技能のバランスは悪くなるが、それでもなんとかやっていくのが冒険者なので、志願者の中から戦闘職三名、支援職二名を無作為に選んだ結果、こうなったらしい。
「もしもあなたの言うとおり、他のみんなのLVが低いとしたら、そこはあなたがフォローしてあげてね。パーティを上手く機能させるという能力も、優秀な騎士に求められる資質のひとつだから、これも訓練と思って頑張って」
「……なるほど、承知いたしました。この任務、全力で全うさせていただきます」
説明に納得したのか、ヴィオレッタは一度頭を下げてから、ぐんと立ち上がり僕らに向き直る。
「聞いてのとおりだ。このパーティをまともに機能させるため、貴様らは私の指揮下に入るように!」
「ふざけるなっ!!」
高らかに宣言するヴィオレッタに、ガーティレイが間髪入れずに異議を唱えた。そして二人はお互いに掴みかかりそうな勢いで、リーダーは一番優秀な者がなるべきで、それは自分だと主張し、一歩も譲らずに激しい口論を始めた。
ブゥプが魔族たちの前で見苦しいからやめろと止めたけど、ガーティレイが「魔族など知るか!」と吐き捨て、それをヴィオレッタが「不敬であるぞ!」と咎めるので、言い争いはますますヒートアップしていく。ちらっとティクトレアとヒーゼリオフの様子を見たけど、二人ははしゃぐ子供でも眺めるような顔をしていた。
僕はもう帰りたいなと思いながら「困っちゃたね」とシシィに耳打ちした。シシィも同じ気持ちなのか、「まったくだ」と頭を掻く。シシィが僕と違うのは、深呼吸のあと「まぁまぁ、二人共……」と二人の間に入っていったことだ。
「ここは冒険者流に、リーダーとか指揮系統とか無しでいきましょ。モメるんで。お互いの性能を見て、役割と隊列だけ決めて、あとは臨機応変にって感じでどっすか?」
シシィは軽い口調でさらりと言った。あんな激しい言い争いの中に入っていくだけでも尊敬に値するのに、臆する様子もなく意見を言えるなんて、やっぱりシシィはすごい子だと思った。僕と、少し離れたところにいるルゥは、きゅっと身を縮めたまま、話の行く先を見守った。
「お二人はどっちもバリバリ戦闘タイプって感じなんで、前衛に立ってもらって、どっちが優秀かは仕留めた魔物の数とかで決めたらいいじゃないすか。元々そんな話してましたし。ね?」
ガーティレイもヴィオレッタも睨み合ったまま、シシィには目もくれない。しかし意見は耳に届いたようで、お互いに「吠え面をかかせてやる!」とそっぽを向いた。
「やれやれ。出発前からずいぶんと揉めているようですわね」
オルナダ様の匂いが戻ると同時に、背後から嗄れたエルフ訛りの言葉が聞こえた。
振り向くとオルナダ様と、その隣に立つ、老齢の小柄なオーガが目に入った。肌は赤いけど額の角は小さく、白髪混じりの金髪を二本のおさげしている。よく見ると目の色が緑なので、エルフとの混血なのかもしれない。総付きの肩章がついた赤い制服を着崩して、腰には二本の片手剣と酒瓶を下げている。
「うわ! キャサリーヌって、剣聖キャサリーヌか! ヤバいな!」
シシィが興奮した様子で囁いた。屈んだ僕が「誰?」と聞くと、伝説級の元冒険者で、昔貸してくれた冒険小説の主人公のモデルになった人物らしい。
「なんだ、もうケンカしてるのか……。どうせお前が「一番強いのは自分だ」とでも言ったんだろう、ガーティレイ」
「事実だろうが! それに始めたのはこいつだ!」
「なっ……! それは貴様のほうであろう!」
オルナダ様が呆れたように腕組みをすると、ガーティレイとヴィオレッタが再び睨み合った。せっかくシシィが丸く収めたのにと、僕はこめかみを抑えた。
「そういうことでしたら、一人ずつ実力を見せてはどうですの? このひよっこ共は、まだ相手の力量を見抜く技能を身に着けていないようですから、実際に見るまでは互いを信用できないのではなくて?」
「そうねぇ。私もそろそろ、このくだらない言い合いを止めにしてもらいたいし。じゃあ一人ずつ、なにか力量がわかる技を披露してくれる?」
「それはいいな。フューリ、お前が取りを勤めろ」
キャサリーヌの提案で、僕らは唐突に一発芸大会を行うことになった。ガーティレイとヴィオレッタはこの提案を気に入ったらしい。武器を構えて意気揚々と、近くに立った岩柱の元へ歩いていった。
「ぜぃりゃぁぁっ!!」
先にガーティレイが両手斧で岩柱を切り上げた。斬撃がてっぺんまで走り抜け、岩柱は真っ二つに割れて粉々に崩れた。
「見ろ。これがオーガのパワーよ」
斧を肩に担ぎ、ガーティレイは胸を張った。ブゥプが「怪力自慢のオーガとはいえ、あの巨大な岩柱を一撃で粉砕するなんぞ、並の芸当ではない……。デカい口を叩くだけのことはあるっっっ!」と拳を握った。
一方、ヴィオレッタは涼しい顔をして「重量武器を叩きつければ、大抵の物は砕けるものだ」とガーティレイが砕いた岩柱の隣の岩柱の前に立つ。
「ただのパワーには芸がない、技術も、優雅さもな!」
ヴィオレッタの細剣が紫色の光を放つ。なにかしらの強化魔法が施されたようだった。光る細剣を高速で振りつつ、ヴィオレッタは岩柱の周りを素早く一周する。
岩柱は剣を振るう前と変わらずそびえ立っていた。しかしヴィオレッタが魔法で岩柱の一部を引き抜くと、岩柱の根本が無数の八面体に変わり、ザラザラと崩れ落ちた。その八面体のいくつかを、ヴィオレッタは魔法で僕らの近くまで移動させた。
「この切り口に形状。あの岩の根本をすべてこの状態にカットしたというのか……。ルルクード騎士の剣技がこれほどとは……。その鋭さ、正確さ、まさに絶技っっっ!!」
八面体になった岩を見つめたブゥプが感嘆の声を上げると、ヴィオレッタは満足そうに剣を収めた。
「ふん。曲芸師が」
「黙れ、パワーバカめ」
ガーティレイとヴィオレッタは、まだ罵り合いを止めなかったが、互いの実力を知ったからか、声の調子がいくらか大人しくなっていた。
「あー、こんなの見せられたあとじゃやりにくいなぁ」
シシィがお世辞か本気かわからない調子で言って、前髪を掻き上げる。そしてその場で弓を引き、天に向かって矢を射った。
放たれた矢は大きく弧を描いて、数メイタル先を歩いていたトカゲの腹を貫く。
「ま、地味ですけど、援護の矢は味方には当たらないってことで」
シシィは軽く両手を広げて、トカゲを拾い上げる。
「確かに見た目は地味だが、上空の空気の流れを完璧に把握していなければ、不可能な技だ……。魔力に乏しいヒューマーでありながら、認知強化をこれほど使いこなすとは……」
「や。操作魔法との合せ技なんで、認知はそこまで強くないっす」
シシィは僕にトカゲを渡して、ひらひらと顔の横で手を振るけど、先の二人に負けないくらいの技量があることは明白だった。
「じ、じゃあ、次、いきましゅ……。大地を流れる力の流れよ、我が身を通じ……」
緊張した様子のルゥが、両手を広げて詠唱を始めた。魔法でなく魔術を見せるつもりらしい。詠唱と同時に、足元に光の魔法陣を作り出していることから、高度な術であることが伺えた。
ルゥの胸の前で強い光が輝き、中で水がごぼごぼと音を立てて生成されていく。やがて水は球体にまとまり、紫色に変色していった。
「すべてを覆え、パープルミスト!」
ルゥが詠唱を終えると、周囲は紫色の霧に包まれた。花のような香りの霧が、その場に潤いを与えた。回復系の魔術なのか、肌がしっとりとして、ほんの少しだけど気分がスッキリとなった気がする。だけどこれのどこが凄いのか、僕ら調査班にはいまいちわからなかった。
だけどオルナダ様を始めとした魔族や、ユミエールは「これはえげつない」と顔をニコニコさせていた。
「避けるのが難しく、拡散しやすい霧の生成は、水系魔法の中でもかなりの高難易度っっっ! そこにさらに粘度と香りを与え、リラックス効果を生み出す術を即興で生み出す魔術知識っっっ!! 毒性を付与すれば、一度に大量の魔物を討伐することも可能っっっ!! さっっっすが、本職のいとこ! 素晴らしい実力であるっっっ!!」
ブゥプは飛び回って絶賛すると、ルゥに飛び付き、頭をグリグリと撫でた。ルゥは「お姉ちゃんやめて~」と悲鳴を上げている。
説明を聞いて〝えげつない〟の意味を理解した僕は、洞窟内で使用された場面を想像し身震いした。他のメンバーも同じことを考えたのだろう、みんな顔を引きつらせていた。
「よぅし、いよいよお前の番だな、フューリ。かましてやれ!」
「は、はいっ!」
オルナダ様に腰をぽんと叩かれて、僕はシシィにもらったトカゲを飲み込み前に出た。
「えぇと、じゃあ僕は、ヒック、前職が狩人だったので、その知識を……。ここの丸い葉っぱの草は食べられ、ヒック……。あ、あっちのトゲトゲしたのは根っこが痛み止めに……」
「ちっがぁぁぁう!! そこは魔装だろう!」
屈んで草を指差す僕に、オルナダ様は手をバタつかせつつ叫んだ。
魔装なんて出し入れできる便利な装備くらいの技なのに、見せる意味があるだろうか? 僕は疑問に感じたけど、せっかくオルナダ様がリクエストしてくれたのだ。披露しないわけにはいかないだろう。
僕は人差し指の先に小さな魔力の爪を作り出した。ティクトレアたちとブゥプは「おお……」と声を上げたけど、オルナダ様が見たいのはこれではないらしい。「それじゃなく、普通のだ。全身ぼわっと覆うヤツ」と両手で波の形を描く。
僕は言われるまま、爪先に集中させた魔力を身体の周りに薄く広げた。頭に『技能「魔装」を検知しました。技能LVを計測します』という通知が響く。青白く光る魔力の膜が全身を薄く覆う。「こんな感じで良いですか?」と尋ねると、オルナダ様は「よしよし」と満足そうに頷いた。
「んじゃ、ガーティレイ、フューリを攻撃!」
「ぃよっしゃ! 死ねぃ!!」
「いや、それはやめたほうが……」
僕は止めようと片手を上げたけど、すでに振り下ろされていたガーティレイの斧は、僕の鎖骨辺りの魔装に当たってパキャンと粉々に砕けてしまった。
「どうだ見たか。なかなかやるだろう?」
オルナダ様はふふんと鼻を鳴らして、ティクトレアたちを振り返った。二人は驚いたように目を丸くしていた。
「魔装の制御は難しいのに、こんなに薄く均一広げるなんて、ずいぶん器用なのね……」
「しかもその薄さでこの強度……。オーガの攻撃にびくともしないとか……。って、べ、別にヒーゼリオフ様は感心したりなんてしてないんだからね!」
二人が感想を述べると、オルナダ様は「そうだろそうだろ」と機嫌良く笑った。
シシィまで「おい、魔装強ぇじゃん!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。
「こんな無敵技能、なんで今まで隠してたんだよ! これならなにが来ても楽勝じゃねーか! くーーー! 絶対パーティ組んで冒険行くぞ! 絶対だからな!!」
「それは良いけど、魔装は魔力消費が激しいから長持ちしないよ?」
「気にすんなって! 魔力切れてもお前は強いだろ!」
「そうだぞ、お前はもっと自信を持つことだ」
シシィが僕の背中にぴょんと飛び乗ると、オルナダ様も一緒に乗ってきて、二人で僕の頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。
技量を見せるという意味では、さっと躱して見せたほうが良かったんじゃないかとも思ったけど、喜んでもらえたようだし、これで良かったんだろう。
というか、もし僕が防ぐことも避けることもできなかったら、今頃死体ができあがっていたわけだけど、そうなっていたらガーティレイは一体どうするつもりだったんだろうか? 死ねと叫んでいたし、岩柱を砕いたのと同じ力で攻撃してきてたけど。
ガーティレイは「おい。壊れたぞ。おい」と責任を取れとでも言わんばかりにオルナダ様に向かって斧を突き出している。オルナダ様は「うむ。ご苦労」と魔法で斧を直してあげた。斧が砕けてしまったのは、ある意味ガーティレイの自業自得なのに、オルナダ様は寛大だなと僕は思った。
「き、貴様! 殿下になにをしよったかぁっっっ!!」
これまで静かだったブゥプがバンバンと地面を蹴って、ガーティレイを怒鳴りつけだした。どうやらガーティレイが僕を斬り付けた光景にショックを受けて、今まで固まっていたらしい。ルゥに至っては、まだ両手で顔を覆ってプルプルと震えていた。
「さて、ひよっこ共。これで互いの力量はわかりましたわね?」
キャサリーヌがパンパンと手を叩いて、ガーティレイとヴィオレッタを見た。ガーティレイは腕組みをしてそっぽを向き、ヴィオレッタはユミエールに采配を疑ったことを侘びた。
「謝ることはなくってよ。どの道、初対面同士でパーティを組む際には、こういった機会が必要になるものですわ。揃いも揃って相手の力量を推し量れる域に達していないというのは想定外でしたけれど」
「まぁまぁ。今回は冒険者パーティランクD~C程度のパーティになるように構成しているから、B以上の技量を求めるのは酷でしょう」
キャサリーヌの苦言にユミエールがフォローを入れたけど、ヴィオレッタはますます肩を落とした。
ともかく僕たちは、ようやく出発することになった。オルナダ様たちは高級感のある竜車に、僕らは普通の竜車にそれぞれ分かれて乗車するらしい。
「それじゃあボクはこの辺で。いってらっしゃーい」
竜車に乗り込む順番を待っていると、執事服のエルフがティクトレアに手を振っているのが見えた。
「あなたも来るのよ」
「え? いやぁ、ボクは見送りが済んだら屋敷の手入れに行こうかと……」
「ダメよ。あなたは目を離すとすぐサボるんだから。一緒に来なさい」
「は、は~い……」
執事は雇い主の世話があるから向こうの竜車に乗れるのか。僕は羨ましい気持ちで、竜車に乗り込む執事服を眺めた。が、すぐに「あなたはあっち」と言われて、こっちの竜車に向かってきたので、そういうわけでもないらしい。
「これはこれは。改めまして、はじめまして殿下~。ボクはティクトレアルミナス閣下の飼い犬でケイシイ卿と申します。お見知りおきを~」
この人は一体何者なのかと見ていると、執事服のエルフ、ケイシイは僕と目が合うなり、執事流と思われる大仰かつ優雅な動作で僕に頭を下げた。
「ど、どうも。あの、殿下っていうのは慣れないので、その、フューリで……。よ、よろしくお願いします……」
「了解、フューリ。同じ魔族の飼い犬同士、仲良くしましょ~」
僕があわあわと挨拶を返すと、ケイシイはパッと顔を上げ、僕の背中をバシバシ叩いた。
「くるぁっっっ!! ケイシイ卿っっっ!! 殿下になんたる態度を取っとるんですかいっっっ!!」
「あ、ブゥプさん。あの、大丈夫なので、その……」
ブゥプが微妙に丁寧にケイシイを怒鳴ったので、僕は慌てて宥める。ブゥプは「殿下がそうおっしゃるなら」と怒りを収めてくれたけど「殿下に悪い影響を与えんじゃねぇですぞい!!」と釘を指していた。どうもこのケイシイという人は、魔族の飼い犬なのにあまり敬われていないようだ。
へらへらっとした印象だからかもしれないけれど、僕はそういうシシィっぽいノリは嫌いじゃない。ケイシイの言うように、飼い犬同士、仲良くなれたら良いなと思いつつ、僕は竜車に乗り込んだ。


第六話公開しました。

一気にキャラが増えて文字数も膨らんでしまった……。十二人もおるやん……。

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オリジナル百合小説目次

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MURCIELAGO -ムルシエラゴ-

 
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