2022
3
Aug

百合小説

創作百合小説チート主人公ファンタジー「魔王の飼い犬」16


ハイエナ設定使用のオリジナルの百合小説です。
Kindleから出版している『ネコサマ魔王とタチワンコ』の続編で、第十五話の続きになります。

第十五話までのあらすじは以下のような感じです。

魔族たちの飛行魔法によって狩り場を移動したシシィたちは早速狩りに向かおうとするが、シシィの「他人に親切なところを見せると好感度が上がりますよ」ってセリフが効いているヒーゼリオフが「そんな装備じゃ心許ない」と言い出して、ティクトレアと一緒に全員の装備強化をしてくれた。

【登場人物一覧】
フューリ:元狩人でオルナダの飼い犬。人狼とヒューマーのハーフ。
オルナダ:イラヴァールの国王的魔族。
シシィ:フューリの友人のヒューマー。
ガーティレイ:調査パーティメンバーのオーガ。
ルゥ:調査パーティメンバーの人兎。
ヴィオレッタ:調査パーティメンバーのダークエルフ。
キャサリーヌ:調査パーティの指導教官。オーガとエルフのハーフ。
ティクトレア:イラヴァール大臣的魔族。
ヒーゼリオフ:ランピャンのダンジョンマスターをしている魔族。
ケイシイ:ティクトレアの飼い犬をしているエルフ。
ユミエール:オルナダの右腕的エルフ。
ブゥプ:ユミエールの部下の人兎。

以下十六話です。


二十分ほど雪山を歩くと、視界に小さく赤い歪な円がちらほら映るようになる。半面に施された熱探知の効果だ。普通に見たのではただの雪景色だけど、この機能のお陰で雪や木の影にたくさんの山賊猿が潜んでいることがわかった。ざっと二、三十頭はいる気がする。
「……囲みに来てんなぁ」
「どんどん増えてましゅ……」
「ふん。何体来ようと所詮は猿だろうが」
「さっきまで凍えていたヤツがよく言うものだ」
「やっぱり僕も援護に入ったほうが……」
「援護はわたくしたちがするから、フューくんは解体に集中して大丈夫よ」
「ていうか、そのアップグレードした装備で負けたら承知しないわよ! 気合い入れて狩りなさい!」
「じゃあ狼のときと同じ感じで、フューリたちを中心に背中合わせでやるってことで」
「一人何体ずつにしましゅか?」
「まだ増えそうだし、そこは決めなくて良いんじゃないか。倒せるときは倒す感じでいこう」
私たちは軽く打ち合わせをしつつ、なるべく開けた場所へと移動する。ちょうどよい場所に陣取って武器を構えるけど、なにかを警戒しているのか山賊猿たちは襲ってこない。武器を収め、火を焚いて休憩している風を装ってみても、一向に物陰から出てくる気配はなかった。
「あいつら、なんで襲ってこないんだろ?」
「猿とはいえ小賢しい連中だからね。オーガのガーティレイか、フューを警戒してるんでしょ」
「そうね、二人共身体が大きいし、フューくんは技能を常時発動してるもの。一度止めてみたらどうかしら?」
「こんなチビと私を一緒に……」
「こ、この技能、止められるんですか!?」
不服そうに顔を顰めるガーティレイを遮って、フューリがティクトレアの顔を覗き込む。
「『捕食者の気配』でしょう? ぎゅ~ってすれば止められるわよ?」
「それがパーッてするかね。ていうか意図的に発動してたんじゃないわけ?」
ティクトレアはニコニコと、ヒーゼリオフは呆れ顔をして止め方を教えた。擬音で言われてもなにをどうすればいいのかは、まったくわからないけど『捕食者の気配』を忌み嫌っているフューリは、目を輝かせて、ぎゅ~とパーッに挑戦し始める。もちろん上手くいくはずもなく、ただフューリが珍妙な踊りを踊っているのを眺める会が開催されただけだった。魔族たちはその光景を楽しそうに眺めていたが、どうやっても上手くできないフューリは段々と耳としっぽがしなしなになっていった。
「もうちょっと具体的に説明してやったらどうっすか?」
「うぅ~ん……。そうしたいのは山々なんだけど……」
「ほかに言いようがないんだからしょうがないでしょ。もう結界でも張って効果封じたほうが早いんじゃない?」
できるヤツはできないヤツがなぜできないのか理解できないというけど、魔族って連中も典型的にそのタイプらしい。絶望的に教えるのがヘタクソだ。結局フューリはティクトレアが張った結界の中で解体作業をすることになる。フューリが結界の中に入ると、山賊猿たちは目に見えてそわそわとし始めて、今にも襲ってきそうな気配を感じさせた。そして数秒後には、一斉に物陰から姿を現し「キーッ」と甲高い声を上げて、こちらに飛び掛かってくる。
私に向かってきたのは五頭。くすんだ黄色い被毛を纏い、どいつも人間から奪っただろうナイフと皮の鎧で武装している。まさに山賊猿の名に相応しい風貌だ。毛の少ない赤い顔には汚い笑みが浮かんでいて、その凶暴性や残虐性が見て取れる。
とはいえ所詮、脅威度Hだ。
如意槍を飛び出しモードにして、瞬時に三頭の頭を打ち抜く。すかさず分解モードに切り替え、残る二頭のナイフを受け止めた。
「あちゃぁ。これ、五頭全部突けたなぁ」
筋力強化のおかげでスピードもアップしているので、ナイフを受けるまでにかなりの余裕があった。フューリが「コントロールが乱れると困るから」と筋力強化を断ったのも、多少は納得できるなと思いつつ、ナイフの二頭をぐんと押し返した。想像の三倍は遠くに飛んでいく。
その間に距離を詰めていた、片手剣を持つ四頭が二頭の影から現れ、刃を振り下ろす。半面の熱探知がなければ、完全に見えていなかっただろう。ヒーゼリオフが言っていた通り、こいつらはなかなか賢いようだ。強化前の装備では苦戦したかもしれない。
けれど半面のおかげで不意を突かれることもなく、冷静に対処できる。一歩後ろに飛んで斬撃を躱し、分解した如意槍の刃を大片刃型に切り替えて、四頭の首を纏めて刎ねる。さっき押し返した二頭が再び向かってくるのを、魔力を注いで柄を伸ばし、額を貫き仕留める。
本当は程よく伸ばしたところで止めてから、振るって首を刎ねるつもりだったんだけど、如意槍の柄の部分は想像していたより遥かに伸びるスピードが早くて、結果的にそうなったのだ。要するに如意槍の柄は、ほんの少し流しただけでぐんぐんと伸びる上、魔力消費量もかなり少ないということだ。戻るときは一瞬だし、これは使いこなせば、かなり多彩な戦い方ができるに違いない。
自然と口の端が持ち上がる。「さぁ、どんどんかかってこい!」と叫びたくなるのを堪えて、如意槍を飛び出しモードに戻し、山賊猿の動きを窺った。
猿たちは「こいつ思ったより強い」とでも思ったのか、私を睨んだままじりじりと後ずさって、少し身体の大きい猿の顔をチラチラと見ていた。指揮系統がしっかりとしているらしい。人間の山賊も顔負けというのも納得だ。
リーダーの猿を仕留めれば手下の猿たちは逃げていってしまうだろうから、まだリーダーは攻撃しないほうが良いだろうか? ほかのメンバーたちはどう考えているだろうかと、それとなく様子を見る。
ヴィオレッタは細剣に形状変化の術式を入れてもらったのか、刃を蛇のように伸ばし猿の喉を次々に掻き切っていた。ルゥの戦法はリンボル狼のときと同様に、地面から棘を伸ばすものだったけど、今は足元が雪だからか、石ではなく氷の槍を放っている。ローブに付与された魔力注入効果のおかげで余裕があるのか、猿たちの足を氷で固め動きを封じた上で、確実に頭を射抜いているようだ。ガーティレイはというと、猿の素早さに手を焼いているのか「おのれぇ!」と叫びながら斧を振り回している。今のところ、討伐数トップはルゥだろう。
ちなみにフューリは死んだ猿を魔力で手元に引き寄せて、次々に解体を済ませていた。そしてフューリの傍らを陣取るティクトレアとヒーゼリオフは、その手元を横から覗き込み、手際の良さや技術をこれでもかというほど褒めた。
ただ褒めるだけなら良いのだが、二人は我先に好感度を上げようと競い合うものだから、段々と表現が大仰になり、猫なで声が聞いていられないほど甲高くなっていく。戦闘中の身にはかなり耳障りなものがあって正直参った。一言文句を言ってやりたいレベルだが、装備を強化してもらった手前そういうわけにもいかない。
だけどこのパーティには、幸いと言うべきか残念ながらと言うべきか、そういったことを一切気にしない人物が一人いる。
「おい、貴様ら! そんなくだらん作業より、戦闘を見ぬか、戦闘を!」
ガーティレイが猿を追い回すのを止め、のしのしと魔族たちに歩み寄り、腰に手を当てる。逃げ回っていた猿たちは突如背中を向けたガーティレイを、あっけにとられたように見つめていた。
それだけなら良かったのだけど、
「また貴様か、オーガ! いい加減に礼をわきまえろ! 第一、今は戦闘中であろうが!」
なんて言って、ヴィオレッタがガーティレイを咎めに中央の結界に駆け寄ったものだから、さぁ大変。一度に二人が戦線を離脱したことで、これはチャンスと思った猿たちが一斉に突進してくる。私とルゥは可能な限り猿を仕留め、背を向けたヴィオレッタとガーティレイのところへいかないよう努めた。だけど猿の数が多いし、そもそも四人で四方向の分担をしていたのだから、どうしたって全部は打ち取れない。私たちの攻撃を突破した猿たちが、二人の背後へと襲いかかる。
「お、おい! そっち行ったぞ!」
警告し振り返ったが、二人共罵り合いに夢中で、猿たちに目を向ける様子はない。
やられる。と思った瞬間、紫色の光がヴィオレッタの背後にいた猿たちの身体を真横に走り抜ける。変形したヴィオレッタの細剣だ。爬虫類の尾のように触れた刃が、鮮血を纏ってしゅるんと元の形状へと戻っていく。バラバラになった猿のパーツが雪の上に転がる。
ヴィオレッタは何事もなかったようにガーティレイを罵り続け、猿たちを振り返る様子はない。目を瞑っていても勝てると言わんばかりだ。
ガーティレイに至っては、もはや猿の攻撃を避けようともしなかった。噛み付こうとしがみついた猿をむんずと捕まえては、片手で首をへし折ったり、顎をもぎ取ったり、頭を胴から引き抜いたり、まるで身体に集る羽虫を潰すように、容易く猿を葬っていく。その上、噛みつかれたり、引っかかれたりしているはずの身体には、かすり傷一つ付いていない。魔力で強化していない状態でなら、オーガの筋力と肉体強度は全種族最高レベルというけど、まさかこれほどとは。
フューリの戦闘力が圧倒的すぎて忘れがちだけど、この二人もかなり高い戦闘力を持っている。如意槍を始めとした装備を得たことで、多少は追いつけたかと思っていたけど、根本的に地力が違うってことを思い知らされた。
「こんな獣の皮を剥ぐくらい誰でもできるだろうが、私が猿を捻り潰すほうが面白かろう!」
「殿下の類まれな技術を前にして不敬であるぞ! 直ちに訂正しろ!」
「あの……、ヴィさん。これはそんなに難しくないので……」
「ほれみろ。私もその程度、造作もなくこなせるわ。だが、貴様は皮一つ剥げぬということだな。ようやく敗北を認める気になったか」
「なっ! 貴様にできて我にできぬことなどない!」
こんな低俗な言い争いのために敵に背を向けられるほどの実力があるというなら、私たちは打ち漏らしなんて気にせず、目の前の戦闘に集中しよう。猿たちが実力差に気付いて、逃走の気配を見せてるし。
「ルゥ、なるべく逃さないように連携取んない?」
「了解でしゅ! ルゥは逃さないように足を固めましゅから、シシィしゃんは止めを頼みましゅ!」
「僕も手伝うよ。ガーさん、ヴィさん、解体の続きお願いします」
ルゥの魔法だけだと逃げられる獲物が多いと判断したのか、フューリがガーティレイとヴィオレッタにナイフを手渡し、盾を両手に結界の外へ出た。その途端、猿たちは『捕食者の気配』を感じ取り「キギギッ」と声を上げて、散り散りに逃げ出す。
「おいおい! 逃げちゃったぞ!」
「大丈夫。二人の前辺りに落ちるように飛ばすから、順番に止め刺して」
フューリはどんと地面を蹴って跳び上がり、逃げる猿の先頭集団の前に降り立つ。遠く離れている上に動きが速いので、なにをしているのかは見えないけど、あのフライパンのような盾で猿を掬い上げ、こっちに飛ばしているんだろう。弧を描くようにして飛んできた猿が、次々と目の前の雪に埋もれていく。一つの集団を飛ばし終わったら、移動してまた別の集団を投げ飛ばす。フューリは匂いや足音での追跡もできるし、たぶん山賊猿たちは一匹たりとも逃げ出すことはできないだろう。
「……これなら全部狩りきれそうだけど、さすがにちょっと気の毒だな」
「もう一回フューしゃんに飛ばされなくて良いように、手早く仕留めちゃいましょうでしゅ……」
私とルゥは雪から這い出して再び逃走を試みる猿たちを、淡々と後ろから突いていく。面白みはないけど、こいつらの素材と装備を売れば結構な稼ぎになるし、パーティランクがEに上がるのは確実だろう。
「じゃあ、あなたたちはフューくんの代わりに解体頑張ってね」
「な、なぜこの私がそんな雑事をせねばならんのだ!」
「アンタたちがやれるって言ったから、フューがあっちに行っちゃったんじゃない。責任持ってやってもらうわよ」
「も、申し訳ございません、陛下。つい売り言葉に買い言葉で……。あ、あの、どうかお許しを……」
背後ではフューリとの交流を邪魔された魔族たちが、ガーティレイとヴィオレッタにドス黒い笑顔で怒りをぶつけている。二人は強引にナイフを握らされ、仕方なく猿の腹にナイフを入れるけど、内臓のグロさにやられ、「ぐえ」とか「おげ」などと嘔吐くばかりで、遅々として進まない。私たちが猿をすっかり片付けて、フューリが戻ってきても、二人は顔を背けてぷるぷると震えるばかりだった。
ガーティレイが猿の顎や頭を引きちぎる光景のほうがよっぽどグロテスクだったろうに。なんて思いながら私は、魔族たちの魔法で無理矢理に目を開かされ、フューリのお手本を強制的に見せられて嘔吐する二人を、気の毒な気持ちで眺めた。


如意槍の戦闘シーン、もうちょっと長く書きたかったけど、敵が雑魚だからすぐ終わってしもたん……

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百合ドリル

 
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